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モンスターパークの風景(ssスレ)

このスレは、ドラ雑のスレに書いたモンスターパークの小説を投下・鑑賞するものです。
 感想もどしどしどうぞ!批判的な感想・矛盾を指摘する文章でも甘んじて受けます。
 また、見てくれた人、ss書きに参加してくれるととても嬉しいです。では、ドラ雑に投下済みの『小さな恋のものがたり』『カシェルの思い』の投下を始めます。
(PC)
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『小さな恋のものがたり』

ここはモンスターパーク。ルーメンという町のとなりにある、モンスターたちの楽園です。
ここに集まるモンスターたちは、昔は魔王の命令で悪いことをしていましたが、
モンスターパークの管理人アルスさんにやっつけられてからアルスさんになついて
ここにやってきました。だから、みんなアルスさんのことをとっても尊敬しているんですよ。
(PC)
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ある晴れた日。モンスターパークで、大運動会が行われました。
キラーストーカー、メランザーナ、れんごくまちょう、プロトキラー…
一見怖そうなモンスターも、見るからにかわいいモンスターもみんなにこにこしています。
スライムのスラオくんはスライムレースに出場します。
一緒に走るのは、スライムベスのスラミちゃん、ドラゴスライム君、スライムナイトさん、はぐれメタルさんです。
スラオくん、今日まで一生懸命練習してきました。はぐれメタルさんには勝てなくても、
2番目をとりたいと思って、毎日高く跳ねれるようにがんばってきたんです。
今日になってスラオくん、とっても緊張しています。
スラミちゃんも、「スラオちゃん、一緒に頑張ろうね!」って言ってくれているのに
スラオくんは聞こえていないみたいです。
そろそろレースが始まるみたいです。スラオくんはスタートラインにつきました。
アルスさんの合図でレースは始まります。
「よーい、ドン!」
アルスさんが言うと同時に、みんな一斉にスタートしました。
今回のレースは、障害物レースです。途中にはさまざまな障害があります。
といっている間に、はぐれメタルさんはすでに最初の障害物に入ったみたいです。
最初の障害物は網くぐりです。うまくくぐらないとからまってしまいます。
はぐれメタルさんは、その網の下をあっという間に潜り抜けました。
遅れて、ドラゴスライム君とスライムナイトさんが網に入りました。
ドラゴスライム君は普段飛んでいるので網の下を通るのに苦労しています。
スライムナイトさんは、ナイトの手足が網にからまってしまったみたいです。
そこからさらに遅れて、スラオくんとスラミちゃんがやってきました。
そこはやわらかいスライム、網をくぐるのは楽チンです。するんと抜けることが出来ました。
(PC)
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その時、はぐれメタルさんは二つ目の障害物で苦労していました。
二つ目の障害物はアンパンです。宙吊り下げられているアンパンを食べなくてはいけません。
でも、はぐれメタルさんはちいさく、そして重いのでうまく食べることが出来ません。
さっきから頑張って跳ねようとしているのですが、後ちょっと届かないのです。
おや?スラオくんとスラミちゃん、もうやってきたみたいです。練習のおかげか速いですね。
でもやっぱり、スラオくんとスラミちゃんもちいさいのでうまく届きません。
あとちょっと、あとちょっと…ぴょんぴょんぴょんぴょん。でも、うまく届きません。
そこでスラオくん、いい事を思いつきました。
「スラミ、ぼくが肩車したら、パンをとって食べれるんじゃない?」
「あっ、なるほど!!スラオちゃん頭いい〜」
スラオ君考えましたね!二段になればあとちょっとが埋まりそうです!
でも、スラミちゃんが褒めてくれたおかげで、スラオくん真っ赤です。
「ああスラオちゃん照れてる〜!」
「いや違うよ!!!いいから早く乗ってよ!」スラオくんは体をぷるんぷるんさせながら言いました。
スラミちゃんはスラオくんの上に乗って跳ねました。今度はパンが取れました。
スラオくんも、スラミちゃんの上に乗って跳ねました。スラオ君もパンを食べることが出来ました。
「よ〜し、次へ進もう!」
後ろにはスライムナイトさんとドラゴスライムさんが見えています。
スラオくんとスラミちゃんは急いで跳ねていきました。
でも、スライムの肩車ってなんなんでしょうね…
(PC)
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モンスターたちも応援してくれます。
パペックマンはひたすら踊り、ブラックサンタは袋から何かを出して振っています。
花カワセミは空でチアリーディングをしていますし、呪いのボトルはみんなに酒を配っています。
スライムナイトさんはジャンプしなくても普通に手を伸ばしてパンを取ることができました。
人間のルールでは手は使っちゃいけないんですけどね。
ドラゴスライム君は余裕でパンをかすめとっていきました。
二匹とも、スライムに負けてたまるかと大急ぎで進んでいきました。
その頃、スラオくんとスラミちゃんは最後の障害物にたどり着きました。
最後の障害物は、借り物競争です。紙に書いてあるものをもってくればゲームクリアです。
借り物競争係のメルビンさんが、二匹に紙を渡してくれました。
スラオくんの紙には、「小さいのに大きいもの」、スラミちゃんの紙には「19185」と書いてあります。
スラオくんは悩んでいます。でも、スラミちゃんは何か分かったみたいですよ。
「わかった!いま、つれてきます!」スラミちゃんは応援席に跳ねていきました。
(PC)
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はぐれメタルさんは、いつのまにかビリになってとってもあせっています。
「うきゃー!!!ギラ!!!」…はぐれメタルさん、やけになってはいけませんよ…
放たれた閃光は偶然にも糸にあたりました。糸は焼ききれました。
やりました!はぐれメタルさん、パンを食べることが出来ました!
はぐれメタルさんはものすごい速さで進んでいきました。
スライムナイトさん、ドラゴスライム君も紙を受け取りました。
スライムナイトさんの紙には「あたり!次に進んでいいよ!」と書いてありました!
スライムナイトさん大喜びです!
ドラゴスライム君の紙には…「アミットまんじゅう」と書いてありました。
アミットまんじゅうはフィッシュベルという村の名産品です。
でも、フィッシュベルはここからとても遠いのです。
ドラゴスライム君は、とっても暗い顔をして炎のため息をつきました。
その時、スラミちゃんが戻ってきました!スラミちゃんが連れているのは…人食い箱です!
「19185とは…ひとくいばこを数字に直したものだったんだわ!」
「正解でござる。先に行っていいでござるよ」
でも、スラミちゃんは動きません。その横ではぐれメタルさんが紙を受け取っています。
「スラオちゃんをおいていってゴールしても嬉しくないもん!スラオちゃん、一緒にゴールしよ?」
スラオくんはまたまた真っ赤になってしまいました。
はぐれメタルさんの紙には、「狼であった少年」と書いてありました。
はぐれメタルさんは一瞬で飛んでいきました。
(PC)
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スライムナイトさんは、1位でゴールしました!アイラさんから、金メダルを受け取っています。
ドラゴスライム君は、キメラさんにルーラでフィッシュベルまでつれてってもらったみたいです。
スラオくんは一生懸命考えました。そして…。
「『小さいのに大きいもの』とは…ぼくのスラミへの思いだ!」
スラオくんは大声で言いました。
みんな静まり返りました。ブタあくまも、ナイトリッチも、きょとんとこっちを見ています。
「ぼくは小さいけれど…この気持ちは…誰にも負けないほど大きいんだ!
ぼくはスラミが好きだ!」
スラオくんはもう真っ赤です。
スラミちゃんもいつもより赤い気がします。
そして、ゆっくりとスラミちゃんがいいました。
「わたしも…スラオちゃんのことが…すき」
どこから拍手が沸き起こりました。アルスさんも微笑みながらうなずいています。
「スラオ殿の言葉、拙者も心を打たれたでござる。先へ進んでいいでござるよ」
というメルビンさんも少し目が潤んでいます。
2人は仲良く並んで、進んでいきました。
(PC)
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夕日が輝く中、閉会式が行われました。
スライムレースは、くじであたりを引いたスライムナイトさんが1位、
あっという間にガボさんをつれてゴールしたはぐれメタルさんが2位、
二人並んでゴールしたスラオくんとスラミちゃんは3位、
フィッシュベルでアミットまんじゅうを買うのにてまどったドラゴスライム君が5位でした。
スラオくんとスラミちゃんは、2人で1つの銅色のメダルを貰いました。
2位にはなれませんでしたが、スラオくんはとても満足していました…
だって、真っ赤な色をした恋人が出来たんですもの…



あとがき…テーマは、のどかです。ひたすら童話のようになるように書きました。見ていると、なんだか癒される…そんな情景を描いたつもりです。 でも、長いですね…
(PC)
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『カシェルの思い』

 ここはモンスターパーク。ルーメンから5分のところにある、魔物たちの楽園。
魔物たちは、ある者はのんびりと、ある者は充実した一日を送っていた。

 太陽が西からさしている朝。ジェネラルダンテのカシェルは、流れ行く雲を見つめていた。なんという名前だったかは忘れたが、もくもくとした雲。ふと足元を見ると、草原が朝露にぬれて光っている。それは足に跳ね、冷たい感覚をカシェルに与えていた。
「お〜い!」
声が聞こえる。そちらをみると、鉄球魔人のタイニーがこちらに走ってくるのが見えた。
「おい、探したぞ!もうバトルトーナメントの参加者はスタイバイしろだとさ」
 タイニーはカシェルのところまで来るといった。遠くから走ってきたのか汗をかいていたが、息を切らせていないところは立派だ。
「ああもうそんな時間か…。分かった。いま行く」
タイニーにそう返すと、カシェルは走り出した。後をみると、タイニーが追いかけてきている。カシェルは走りながら、今は亡き友のことを思い出していた。
(PC)
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 テリーは、カシェルが唯一親友といえる相手だった。もちろんタイニーや、他の魔物達が友人ではないという意味ではない。しかし、テリーには同族というだけではないなにか特別な感情を抱いていた。
 生まれたときからカシェルは一人ぼっちだった。母親や父親の記憶はない。カシェルは、誰にも頼らずに一人で暮らしてきた。そんな時、テリーが現れた。
「一緒に暮らさないか?」もともと孤独を好むジェネラルダンテにはらしくない言葉。しかし、カシェルはその「らしくなさ」に興味を持った。カシェルとテリーは、二人で生活するようになった。寒い日は、温かいスープを二人でつくり、火を囲んで語り合い、身体を寄せ合って寝た。その生活の中で、カシェルはテリーに心からの信頼を置くようになった。テリーも、カシェルを慕っていた。二人は、最高の友となった。しかし、そのテリーももうこの世にはいない。
(PC)
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 会場に着くと、会場の魔物たちが拍手をしているのが見えた。その視線をたどると、ドラゴスライムがゴールゲートをくぐったところであった。名前は…ドランといったか。どうやら最下位だったらしく、会場にあったパンや網の片づけが始まっていた。
 昔、ドランは、カシェルに弟子入りを志願してきたことがあった。
「俺…強くなりたいんです!どうか、弟子にしてください!」
近頃はなかなか見ない燃えた目をしていた。半端な気持ちではないということがその目から読み取れた。しかし、カシェルには弟子を取る気はなかった。自分に教えられることはないと思っていたからだ。それは、自分は強いという驕りの気持ちをもちたくないということでもあった。
「お前を弟子にすることは出来ない。帰ってくれ」
その一言で十分だった。ドランは、一瞬でカシェルの真意を汲み取り去っていった。その後、タイニーの弟子になったという話をタイニー自身から聞いた。
「あいつはすごい奴だ。毎日5時間、ひたすら稽古をしても弱音ひとつはかねえ。俺の若いころにはそんな根性はなかったな…」
ドランがへとへとになってタイニーにかかっていったのをカシェルはよく見かけた。それだけではなく、ドランが毎日タイニーに内緒で自主練習をしていたのをも知っていた。そのひたむきな姿を見て、カシェルはドランに好感を抱いていた。
「まあ、ビリになったのは悔しいだろうが、くじ引きの結果だから仕方ないだろう。障害物競争で強さが競われるわけではないからな」
「まったくだ」
ガッハッハと二人は笑いあった。
(PC)
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「―では、私はもう行かせて貰う」
「おう。頑張ってこいよ」
オーガーの言葉を背に受け、控え室に向かった。太陽も先ほどより高い地点にある。草原も先ほどより乾いていた。
 バトルトーナメントの開催の知らせを聞いたとき、カシェルは真っ先に出場の申し込みをした。これは、いわばチャンスだった。亡き友との約束を仮にでも果たすチャンス。この戦いで、負けるわけにはいかない。
「簡単に負けたら、許さないからなっ!」
テリーの声が聞こえた気がした。
 バトルトーナメントは、三二匹のトーナメント制である。くじ引きで戦う相手を決め、コロシアムに入場する。そしてお互いの力・技・呪文の全てを注ぎ、相手を討ち果たすのだ。相手が参ったというまで、もしくは立てなくなるまで戦いは続く。そして、全ての戦いに勝利した者が優勝者となる。
 控え室には、多くの魔物がくつろいでいた。剣を研ぐ者、ひたすら眠る者、談笑する者…カシェルはその輪に加わらず、隅に向かおうとした。
「ジェネラルダンテさんもバトルトーナメントに出場するの?」
唐突にベビーニュートに話しかけられた。
「無論。私は、この大会で優勝するつもりだ」
それだけ言うとベビーニュートから離れていく。「大運動会」で本気になるのも大人気ないとカシェルは自嘲した。しかし、それに本気になる自分が少々可愛くもあった。
(PC)
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 その日も、テリーとカシェルは一緒に歩いていた。
「鳥ってなにを考えているんだろうな。木の実を割ることばっかりか?」
「なにバカなことを言っているんだか」
「そんなこというなよ〜」
二人で笑いあったとき、彼らは現れた。
 緑の頭巾の少年。野生的な雰囲気を漂わせた少年。鎖帷子をまとった老人。赤い衣装の踊り子。テリーとカシェルは、彼らに戦いを挑み、そして敗れた。
 ふと意識が戻った。隣でテリーが倒れている。まだ息があるかわからない。しかしカシェルは、目の前の緑の頭巾の少年に心惹かれていた。
「貴方の心に惚れました…」
ゆっくりと立ち上がりながら言った。口の端から血がこぼれるがそのようなことは気にしていられない。
「貴方の柔らかい心を感じました。貴方が私を殺したいというなら逆らいません。しかしもしよければ、私を使役していただけないでしょうか」
 その後、カシェルは、少年・アルスの言葉に従いここにやってきた。ここは、魔物が平和に暮らせる唯一の場所。カシェルは、このようなところを紹介してくれたアルスにとても感謝している。魔王を裏切ったことには後悔していない。人間の心を知った今、人間を滅ぼす気にはなれない。しかし、テリーを裏切ったことになるのか今でも考える。
(私は、テリーとともに逝くべきだったのだろうか)
 テリーがあのあと息を吹き返したのかどうか分からない。しかしカシェルは、ここが自分のいた時代から遠い未来であることを知っていた。テリーは、既に死んだのである。テリーは死に、自分は生きている。
(お前のことは忘れないからな。許してくれ)
カシェルは、心の中でテリーに許しを請うた。そして、この戦いで負けてはならないという決心を固めた。それは、テリーとの約束。
(PC)
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 一回戦目の相手はダンビラムーチョだった。危なげなく勝てたが、カシェルはほっと息をつく。このようなふざけた容貌のモンスターに負けてはかなわない。二回戦目はメタルライダーとの試合だった。剣の腕はなかなかのものだったが、いかんせん一撃の重さが違った。メタルライダーが上段から思い切り剣を振り落としたとき、カシェルはメタルライダーの腕の中にもぐりこみ剣を弾き飛ばした。カシェルがメタルライダーの頭に剣をかざしたところで、メタルライダーは負けを認めた。その勢いで勝ち進み、カシェルは決勝戦まで勝ち進んだ。そして、テリーとの思い出を回想した。
(PC)
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「ま、参った!」
倒れているのはテリーだった。その視線の先には、既に剣を鞘に納めたカシェル。
「ひゃあ〜負けた!適わないな。やっぱりお前強いな」
「まだ貴様に負けるほど堕ちぶれてはおらん」
そういってにやりと笑う。
テリーは立ち上がり、カシェルの隣に並んだ。
「おいおい言ってくれるじゃんか」
テリーもにやりと笑う。
 カシェルは草原に腰を下ろした。テリーも一緒に座る。草は丈が短く、地面に張り付くように生えていた。その慣れた座り心地は、二人の心を静める。
 空を見上げてみた。雲に隠れた月が申し訳程度に光っている。ここは、封印された土地。太陽が輝くことはないため、草木は細り、人間達には、活気が失われていく。
「―なぜ魔王様は何故人間共を滅ぼそうとするのだろうな」
「俺はそんなこと興味ないな」
素っ気なく一言で返されカシェルはずっこけそうになる。
「!?貴様、折角私が真面目な話をしようとしているところを!」
「ああ悪いな。お前のこと考えててさ」
テリーは足を組みなおした。
「でも、正直いって興味がない。人間にも興味ない。こうしてお前と戦っていると思うんだよ。強さを磨くって楽しいってさ。自分の精神がより練り上げられてくって感じ。なんか毎日が充実しているんだよな」
「…お前らしくない言葉だな」
「人間で言う騎士道って奴かな」
テリーからそんな言葉が聴けるとは思わなかった。相変わらず何を考えているのか分からない。
(PC)
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「まあ、魔王に文句があるなら、お前が魔王になればいいんじゃないか?」
「なにバカなことを」
「強さを磨いていっての最高の目標は魔王だろ。全ての魔物を率いる王者」
テリーは自分の言った言葉に酔っているようだった。
「お前が魔王になったら、俺は副将軍くらいにしてくれよ…」
「…貴様には任せたくないな。その時は、私が全ての指揮を執ろう」
「おいおいやる気だな。よ、次期魔王!」
テリーは調子がいい。そして、一人でどんどん盛り上がっていく。しかし、カシェルはなんとなくそのノリに合わせて見たい気分だった。
「よし分かった。私は魔王になってやる。魔物達を統べる最強の王になってやろう!」
「副将軍のこと、忘れるなよ。約束だぞ!」
「どうしてもというならしてやらんこともない」
二人は笑いあった。
 月も既に沈みかけていたが、太陽は昇らない。その後二人は酒を飲み、そして眠った。そして次の日、カシェルとテリーは別れることになったのだ。
 この時の約束に今でもカシェルは縛られている。魔王なんてテリーもカシェルも本気ではなかった。しかし、これはテリーとカシェルの最後の約束だった。その約束を、このトーナメントで優勝することで仮にでも果そうとしている。魔物の中で最強という称号が欲しかった、それだけである。実際は、このトーナメントで優勝しても最強とはいえないだろう。しかし、この大会で優勝出来ないようだととても魔王とは呼べない。カシェルは、優勝するという決心をさらに強めた。
(PC)
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 決勝戦は大運動会の最後の種目として行われた。
 「決勝戦!両者、前へ」
メルビンの号令とともに会場に入る。周りから大きな拍手が沸き起こる。観客席を見回すと、魔界ファイターが賭けを仕切っているのが見えた。
”ジェネラルダンテ、倍率7.5倍 ナイトキング2倍”
と書いてある看板が見えた。 さらに見直すと、死神貴族が怪しい笑みを浮かべていた。眼があるわけではないのに、なにか企んでいるかのような怪しい視線を感じる。ほおを歪め、全てを見下すように見ている。そんな感じがした。
 目の前に立っているのはナイトキングだった。身体が腐敗しきって骨と化した魔物。高名な魔法使いが、更なる魔力を得るために魔族に魂を売った姿ということを、昔風の噂で聞いた。
「こら負けんなよ!」タイニーの声が響いた。「叩きのめしてやれー!」「ナイトリッチ頑張れ!」「ソロモン!ソフィアはお前をいつでも見ているぞ」「ゾンビの王は負けないんだー!」決勝戦だからかとてもわきだっている。
「試合、始め!」
メルビンの声が会場に響く。
身体ひとつの間合いでお互いの動きを牽制する。相手の呼吸、視線を観察し攻勢に出る機会を図っている。
 先に動いたのはナイトキングだった。
「わしは…負けるわけにはいかない!」つぶやく様な声ながらしっかりと聞こえてきた。右手の剣でカシェルの肺をついてくる。剣の鎬で左にうけながしながら、右に飛び避けた。
(しまった)突きは単なる牽制だった。体重を全く込めていない。突いた剣を返して地面に切り下げ、カシェルの首を狙ってくる。殺す気で攻めているのだ。咄嗟に落ちてくる腕に剣を刺した。ナイトキングの剣の動きが止まった。
 ナイトキングが一瞬不気味な笑みを浮かべた。剣を腕に刺したまま左手で抱え込む。
(!?)抜けない。ものすごい力だ。骨であるがゆえに剣と身体の接触面積は小さい。しかしナイトキングはその小さな部分で剣を封じているのだ。
 ナイトキングは剣を持ち替えた。剣がカシェルの胴を薙ごうとする。カシェルは手を離し後ろに跳ねた。カシェルは剣を失った。
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 ナイトキングは剣を腕から抜いた。そして、カシェルに剣を投げた。足元に剣が転がる。
「―何故剣を返す」
「剣のない相手に勝ったとしてもソフィアに顔向けが出来んでの」
「敵に情けをかけてもらうのは情けないものだな」
「嫌だったかな?」
「貰った恩は受けておく。感謝する」
 足元の剣を拾い、一度鞘に収める。
「言っておくが、わしはお主を殺す気でおる」
「それは分かっている」
「運動会だから可愛い戦いで済ませようとは思わないのじゃ。わしには勝たなければいけない理由がある。そしてきっと、お主にも何かしらの思いがあるのじゃろう。真剣な勝負、命を懸けて戦いたい」
「言うとおりだ。承知した。この命をかけて、貴様を討ち果たしてくれよう」
「では…再び戦闘開始じゃ」
 そういうとナイトキングは一気に間合いを詰めてきた。剣を斜めに切り付けてくる。カシェルは身を屈め、足元を突いた。
 ナイトキングは、カシェルの剣の動きを見抜いたのだろう、剣があたる寸前で飛び上がった。空中から左手の盾を投げる。
 巨体が宙を舞うとはカシェルの予想外だった。飛んでくる盾に一瞬カシェルは眼を奪われた。盾は、カシェルの左足にぶち当たった。痛みに一瞬ナイトキングから気がそれた。
 ナイトキングは空中で剣を両手逆手持ちをしていた。全体重を剣に込め、カシェルの脳天を砕こうとする。
 カシェルは我に返り、身体をそらしながら剣で凌いだ。全体重がかかっているため、とても重い。それを左手一本で凌ぎきれるわけもなく―
(PC)
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 右肩が軽くなった。血が噴き出す。意識を失いそうなほどの痛み。カシェルは左に倒れこんだ。
「右腕が飛んだようじゃの」
ナイトキングの言葉で初めて右腕がなくなっていることに気付いた。右を見ると、血だらけの肉塊が転がっている。それを見ていっそう痛みが強くなった。頭が割れるように痛い。
「―――
ナイトキングが何か言っている。メルビンが動いている気がする。しかし、カシェルには聞くことが出来なかった。カシェルは意識を失いかけた。
「なんであきらめるんだよ」テリーの声が聞こえた。
「今は人間達の世界で幸せにすごしてるんだろ?その幸せを捨てんなよ。まだ負けたわけじゃない」いつもの声で語りかけてくる。
「まだ左手があるじゃないか。お前は魔王になるんだろ?例え腕を失っても顔色一つ変えないのが魔王だろ」
(テリー…)唯一の親友の声。それはカシェルの頭の中に直接響いてくる。
「ほら立てよ。諦めるにはまだ早い。立ち上がれ、カシェル!!」
 カシェルは目を開いた。
「私は…負けない!」
血はまだ流れていたが、ゆっくりと立ち上がる。
「驚いたの。まだ立つとは。止めを刺しておけばよかったわい」
カシェルは剣を構えた。腕は減ったものの、逆に軽くなって戦いやすい。
(テリー…お前の気持ち、しかと受け取った。力を、貸してくれ……!)
「おりゃあ!」
 気合の声を出す。そのときには既に腕の痛みは消えていた。
 今度はカシェルが先に動いた。まっすぐと駆け、胴を貫こうとする。
「ぬぅっ!」
 ナイトキングが驚きの声を上げる。先ほどとは段違いのスピードだ。咄嗟に盾を掲げたが、剣は盾を砕いた。
 ナイトキングは動けないままだ。剣を虚ろな目で見ている。カシェルは、身体ごとぶつかりナイトキングに剣を突き刺した。
(PC)
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 ナイトキングはまだ立っていた。しかし、その腹には深々と剣が突き刺さっている。
「わしは…死ぬのか…ソフィア…」
ナイトキングから生命感が失われていった。弱弱しい声。それはまさしく寿命が尽きる老人の姿だった。
「お前は最高の相手だった。最後に、名を聞こう」
「わしは…ソロモン。妻を裏切った最低の男よ…」
そこまでいうと、ナイトキングは崩れ落ちた。魂を失った身体は風化し風に溶けていく。
「それまで!勝者、ジェネラルダンテ!」
メルビンの声が聞こえた瞬間、カシェルは気を失った。
(PC)
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 既に日は沈もうとしていた。草原も赤色に見える。
興奮冷めやらない魔物たちが集まる中、閉会式が行われた。アルスが各種目の表彰をしていく。最後に、バトルトーナメントの表彰。
「優勝、ジェネラルダンテ!」
アルスが言った。周りから大歓声が聞こえる。カシェルは、アイラから黄金に輝くメダルを受け取った。
「カシェル、感動したぞ!お前はやはり最高の戦士だ!」
タイニーの声だった。それ以外にも勝者カシェルをたたえる声が響いてくる。
「ナイトキングとジェネラルダンテの戦いはとても素晴らしかった。僕も涙が溢れてきたよ」そういうアルスの目には本当に涙が浮かんでいた。静まりかえった会場からもすすり声が聞こえてくる。
「みんな、腕を失ってなお戦ったジェネラルダンテのカシェルと、戦いで命を散らしたナイトキングのソロモンに、もう一度大きな拍手をしよう!」アルスの声で、会場全体が沸いた。誰もが拍手を惜しもうとしない。キングタートル、モシャスナイト、ギガントドラゴン…
(テリー…今日は助かった。勝てたのはお前のおかげだ。私は、お前のことをずっと忘れないからな)
カシェルは心の中で手を合わせた。そして、第二の親友と呼ぶべきソロモンのことを考えていた。
(PC)
22 faddy◆FqvO
おわりです。

あとがき…このSSのテーマは、「亡き友との約束」。今はこの世にいないテリーとカシェルの信頼関係を書いたつもりです。
もうひとつのテーマは、「全員が主人公」。このSSにも、スライムレースでは描かれなかったドラゴスライムのひたむきさがえがかれていたり、ナイトキングにはナイトキングの事情(裏設定としてfaddyの頭の中にはありますが、発表するかは未定)があったりと一人ひとりにストーリーがある!という情景を描こうとしています。

自己満スレなんて呼ばないでね…
(PC)
23 スプリガン
今日ついに小説スレを立てたんだね(^○^)

ファっちの小説は俺的にかなりグ一だね!
次の展開は?とワクワクしながら読んでましたよ

モンスターパークを題材にしたのもいいね
俺は大好きだ(^o^ゞ

これからも応援してるから傑作を次々に読ませて!
(P903i/FOMA)
24 黒崎
>>23同感です(^^)
これからも期待 大です!
ファッチぃの世界をこれからどんどん広げていい作品を作ってね(^0^)/


ファッチぃが書くのをやめるまでファンだぜ!

…やめた後は?


秘密だ!
(SH903i/FOMA)
25 faddy◆FqvO
>>23 ありがとう!これからも、最低3作品は書く予定。満スレ言ったらいいなあ…
>>24 ありがとう!
faddyが書くのをやめたら…
クロちゃんがssを書くのだ!
(PC)
26 ヒーロー◆aOaO
>>1 ファっち
スレ立て乙。
がんがれ!応援してるよ。
(PC)
27 faddy◆FqvO
『孤高の罠魔物』

 ルーメンから南に少し歩いてみよう。しばらくすると、邪悪な心など微塵も感じられないモンスターたちが、ある者はやんちゃに、ある者は物静かに、しかし楽しそうに遊んでいる様子が見られるだろう。そうここは、ルーメンの救世主・アルスの優しさに心を洗われたモンスターたちが暮らすところ。だから人はここを、モンスターの楽園・モンスターパークと呼ぶ。ここに暮らすモンスターはみんなとても仲がいいんだ。でも中には、輪に加わるのが苦手な子がいるみたい…今日は、そんなモンスター、人食い箱君のお話さ…
(PC)
28 faddy◆FqvO
 オレはいつでも一人だった。
 オレは昔なんだったか分からない。昔は仲間とともに暮らしていたのかもしれない。しかしオレは、あいつらとは違った。あいつらみたいな脳みそが完全に腐りきった奴とは違う。
 …あいつら?誰だかわからない。だが、オレはあいつらを軽蔑していた。だからオレは、仲間とも群れることがなかった。そののち、オレはあいつらから離れここに来た。一人真っ暗闇の中で、誰かが宝箱を開けるまでひたすら待っている。何も変わらない日々。いや、日の経ったのも分からなかった。オレはその様な暮らしに飽き飽きしていた。そんな時、あいつがやってきた。
 あいつは、奇襲してきたオレをメラミで焼き払い、唱えかけていた呪文を途切れさせたオレを剣で差しぬいた。オレにかなう相手じゃなかった。そしてオレは、こいつについていけば面白そうな生活が出来そうと思った。少なくても、毎日獲物を待って動かないということはなさそうだ。オレは起き上がり、あいつを見つめていた。するとあいつは、オレに話しかけてきた。
 オレは、あいつの指示にしたがってモンスターパークにやってきた。そしてオレは、現実を知った。
 誰もが新参者、余所者としてオレを見ていた。好奇の目。ひたすら隠れて、不意を突き人間を襲う卑怯者。そうした卑怯者としての目。
「オレは…生きるためにこうしてきた!なんか文句があるならはっきりと言え!」
大声で言ってやった。誰も何も答えない。自分では何も言えない弱虫のくせに、集まると図に乗り出す。そういうやつらなのだ。
 やつらはオレが遠くに見えると、笑いあって話していたくせに突然声を止める。そしてこちらを見ながら何かをひそひそ言う。それを見たオレは、やつらを全力で睨みつける。するとやつらはどこかへ逃げていく。オレを寄って集って笑っているのだ。
 オレはやっぱり、一人だった。
(PC)
29 faddy◆FqvO
 あいつが珍しくやってきて、大運動会というものの説明をしていった。オレはどの種目にも参加する気がなかった。やつらは、あいつに対しては愛想がいい。それに対してあいつは、やつらにもオレにも同じように接してくれた。そういう意味でオレの理解者はあいつだけだった。しかしあいつにしたって、やつらがオレに何をしているか分かっていないようだった。
 今日はその大運動会だ。向こうのほうから声が聞こえる。しかしやつらは、オレが行くとそれだけで避けていく。オレの事が嫌いなのだ。太陽の光が刀のように伸び、宿舎に刺さっていた。オレは、太陽の光がやつらを焼いてしまえばいいと思った。
 しばらくそこでぼんやりと考えていた。あいつと戦ったときは、こんな予定じゃなかった。自分に話しかけ、自分で答える、寂しく味気ない日々は終わるはずだった。
 …オレは、誰かと会話したいのか?オレは、やつらと”おしゃべり”をしたがっているのか?
 答えは出なかった。
(PC)
30 faddy◆FqvO
目の前を毒青虫が這っていった。そのあとを、サンダーラットが跳ねて追っていった。
「ちょっと待つっちゃ!お前が気にしてるとは思わなかったんちゃ!」
「いまさら何も言う気にならないんだな〜虫の気持ちを考えて欲しかったんだな〜」
何を言ったか知らないが、サンダーラットが毒青虫に何かを言ったようだった。
 「虫の気持ちを考える」、か。その言葉は、オレには一瞬「無視の気持ちを考える」と聞こえた。誰も、オレの気持ちは考えてくれない。オレはサンダーラットに背を向け、館に戻ろうとした。
 会場のほうから、ボールが飛んできた。そのボールは、オレの中に入った。少し痛い。
「すみませーん!こちらにボールが飛んできませんでしたかー!」
ミステリーピラーがこちらに走ってきた。白いシャツに灰のネクタイ、黒のスーツという服装は、司会者か審判を思わせた。
 ミステリーピラーは、オレを見るとこちらを見ると一瞬眉をひそめたが、さらに一瞬の後は何事もなかったかのように話しかけてきた。
「すみません。ここにボールが飛んできたと思うんですが?」
「いや知らないね」
オレは、ボールを返す気にならなかった。単なる、大運動会というものへの反抗心だった。
「ああそうですか。ありがとうございました」
ミステリーピラーは言った。腹の底ではオレに話しかけたくないと思っているんだろう。ミステリーピラーは、オレの言ったことを信じたのか他の方向へ走っていった。
(PC)
31 faddy◆FqvO
オレは、いつもの住処である塔に戻ろうとした。そこは唯一安心できるところだった。誰にも見られることなく、一人で孤独を楽しめる。
「ちょっと待ちたまえ」
 突然、後ろから呼びかけられた。
「大運動会はまだ終わっていないぞ。おや?ボールを持っているようだな」
死神貴族だった。最近オレに図々しく話しかけてくる男。しかし、その目的は友好を深めるためではない。あくまで利用しようとしている。オレは死神貴族を信頼していなかった。
 死神貴族はオレからボールを取り出し、草原に投げ捨てた。オレに馴れ馴れしく触ってくるな。
「今から面白いことが起きるのだが、見たくはないのかな?」
いったい何を企んでいるんだこの男は。馬が嘶いた。
「知らないな。オレは何の種目にも出ないし、観戦する気もない」
「そういうことを言っているわけではない。面白いことが起きるのだが」
「興味ねぇ」
「我輩を手伝う気はないか?」
いいかげんにしろこのがいこつ野郎。
「話は終わりか?」
「手伝う気はないか。残念だな。我輩は貴様を買っていたのだが」
「褒めているのか」
「無論」
「それはありがたい」
「では、我輩は行かせて貰う。面白いことがあるからな、明日誰かに話を聞いてみるがいい」
死神貴族は、馬に鞭打った。馬は走り出した。
 オレは、塔に戻った。
(PC)
32 faddy◆FqvO
 オレは塔で眠っていた。湿った冷たい空気。そして、時折吹くひんやりとした風。それらは、オレに快感を与えた。
 しばらくまどろんでいた。しかし、オレは侵入者を察知した。オレは誰にも心を許す気はなかったため、寝ていても緊張状態は崩さなかった。
 そいつはオレのところまでまっすぐやってきた。オレはそいつに目を向ける。
「スライムベスがこんなところに何の用だ」
塔にくるモンスターではない。スライムベスは丘か密林がお似合いだ。
「ちょっとお願いがあるんです…」
「お前もオレを軽蔑するのか」
オレは静かに言った。スライムベスにプレッシャーを与えるためだった。
「それは違います!」
考えていた反応と違っていた。
「あなたは、みんなのことを勘違いしてる。だれもあなたのことを軽蔑なんてしていなかった…」
オレは目を閉じた。スライムベスをまっすぐ見ていられなかったからだ。
「あれを軽蔑といわずになんと言う」
「それはあなたの勘違い。みんな、あなたに話しかけたかったんだわ」
オレは目を閉じたまま思い出した。オレを見るやつらの目……
「あなたは勘違いしてしまって、みんなを怒鳴ってしまった。それでみんな、あなたのことを怖がっているのよ」
スライムベスのいうことを否定できない。
「…そうなのか?」
「あなたはそれからみんなから離れて行動してる。だからみんなあなたのことを噂してるの。あなたがみんなと仲良くしようとすれば、みんなはあなたを受け入
れてくれる」
その考えは出てきたことがなかった。スライムベスに教えられるなんて思いもしなかった。
「私は、今借り物競争であなたの名前を貰いました」
 スライムベスはオレに「19185」と書いてある紙を見せた。
「私と一緒に、メルビンさんのところまでいってくれませんか?」
(PC)
33 faddy◆FqvO
 オレは、コロマージとコロプリーストが話しているのを聞いたことがある。
「人食い箱って何を考えてんだろうね〜」
「訳わかんないあの子。会うだけで睨み付けてくるし」
「うんうん気持ち悪いよね〜」
オレがいることに気付くと、コロマージとコロプリーストは脱兎の如く逃げていった。悲しかった。オレは、なぜこんな目にあわなければいけないのだ。気がついたら、オレは泣いていた。
 オレがここに来たとき、やつらは何を考えていたのだろうか。歓迎?軽蔑?好奇?警戒?やつらが何を考えていたのか分からない。オレは、やつらを怖がらせていたのだろうか。
 オレは今まで、やつらに牙を剥き続けた。やつらがオレを軽蔑していると思ったからだ。しかし本当に、やつらはオレのことを軽蔑していたのだろうか。
 今のオレは、やつらにどう見えているんだろう。変わり者。プライドの高い奴。そして、自分達に意味の分からない敵対心を抱く奴。
「意味の分からない敵対心」。その通りだ。オレのやつらに対する敵対心は、オレの思い込みによるものだ。
 なぜオレだけこんな目にあわなければいけないと思っていた。それは思い込みだった。やつらは、すべてのモンスターを歓迎している。しかし、オレが歓迎さ
れたがらなかったのだ。オレが人と壁を作るから、やつらもオレと壁を作った。
 全ては、オレの被害妄想だった。
(PC)
34 faddy◆FqvO
 俺は目を開けた。
「分かった。行こうじゃないか」
オレは、やつらに謝ろうと思っていた。今まで、意味もなくにらみつけていたこと。許してもらおうとは思わない。許してもらえなかったらそれはオレのせいだ。
「ほんと!?ありがとうございます!」
スライムベスが跳ねた。満開の笑顔。それは、オレの心を溶かしていった。
「どっちへいったらいいんだ」
オレは、スライムベスに好感を抱いていた。ここで初めてオレに真面目に話しかけてくれた奴。そして…笑顔が可愛い。
「会場はこっちです。じゃあ………れっつ・ごー!」
スライムベスは、とても元気に言った。
 オレも、生まれて初めての笑顔で言った。
「…れっつごー」
(PC)
ファっち、新作乙。

ひとくいばこ君、勘違い乙(笑)
嫌われてたわけじゃなかったんだね。よかった、よかった。

あの借り物競走が伏線になってたとは…。さすがfaddy先生!次はソロモンの妻の話かな?wktk


faddy先生の作品が読めるのは、ジャンプ…じゃなくて、「DQ-windom」だけ!
(PC)
36 faddy◆FqvO
>>35 トン。
人食い箱は、最初は普通の印象だったが、怒鳴ってしまったせいで嫌われ者になってしまった…という設定。つまり、みんなが人食い箱を受け入れるとは限らない…
借り物競争は別に伏線だったわけじゃないんだけど、楽しそうな話の裏にこんな話があったら…と思って書いてみた。
あと、ホントはもっと続ける予定だったんだ。会場に出て、スライムベスの告白を見て…でも、ここできったほうがものがたりとして見やすいと判断した。
最後に…もう二つだけ、投稿しているサイトがある。
(PC)
37 黒崎
今回の話は好きだなぁ(^^)やっぱり周りの人(モンスター)の本当に思ってる事はよくわからないから、自分で勝手に嫌われ者と勘違いしてしまう…ってキャラ
昔の自分がそうだったからなぁ(笑)
そしてその勘違いに気付かせる存在の大事さ!
やっぱり話すって大事(^^)

なんか結局何が言いたいかよくわからなくなったけど今回の話は好きです。
(SH903i/FOMA)
38 ヒーロー◆aOaO
>>36ファっち
な、なんだってー?ここだけじゃなかったとは(; ̄Д ̄)
投稿してるのはこことは違う小説なのかにゃ?
(PC)
39 スプリガン
な、なんとファっちの新作がもうお目見えしてるとは不覚であった(--;)

油断大敵だ〜ね〜

ファっち今回の話もグーだよ
かなり早いペースで新作が投稿されてるから又近いうちに新作読めそうだね(^_^
発表を心待ちしてるよ
ファンの一人より
(P903i/FOMA)
40 まつ
faddyさん、こんばんわ(^ー^)ノ
小説読ませて頂きました。
なんだか微笑ましいお話で、すごい良かったです。また新作期待してます!
(D702i/FOMA)
41 なな◆nana
やっと読めました(笑)

何かね…
今回のでね…

人食い箱が大好きになった(笑)


スラミちゃんへの恋が、すぐに失恋に変わると思うと泣けるし(>_<。)


あとは、前回から死神貴族の動向が、めちゃめちゃ気になります(=゚ω゚)ノ
(F901iC/FOMA)
42 faddy◆FqvO
ん!?なんかレスが増えてる…
>>37 ありがとう!人のすれ違いをテーマにしてたりする…
>>38 ふふふふ…全部、同じ! でも、それもいいなあ…サイトごとに違う小説(モンスターパーク設定は同じ)なんてのも…
>>39 ありがとう!
今度は、ローズバトラー小説を予定してます。路線は変更してますよ。
>>40 ありがとんございます!
ほほえましい話だけでは終わらない…かもしれない。
>>41 人食い箱君に惚れてくれた?いいねえ。
死神貴族が何をしているか、伏線引きまくっておいて何も発表しないというマゾもありかな?
(PC)
43 ヒーロー◆aOaO
>>42ファっち
サイトごとに内容が違ったら探すの大変だにゃ(・∀・)

次回はローズバトラーかあ…。楽しみだねェ(戸愚呂弟風)
(PC)
44 faddy◆FqvO
まだあとがきを書いてなかった。

あとがき…今回の主人公・人食い箱君は、人が何を考えているか分からずに、孤独の道を歩いてしまいました。そうテーマは「人とのすれ違い」です。人と上手く協調するのは難しい…それをモンスターで表現したつもりです。どうでしょうか?

一つつぶやき。 
DQ7、虫モンスター少ねええええええええ
(PC)
45 faddy◆FqvO
ええと…悲しいことが発覚しました…

ジェネラルダンテなんですが…

なんと…

過去には出現しないことが判明しました…

おもいっきり矛盾してますね…

モンスターの種族入れ替えも考えましたが…

デビルマスタッシュとか…
フライングデビルとか…

ジェネラルダンテほどのかっこいいモンスターを他のモンスターに変えるなんて…考えられないので…

それに、もうカシェル=ジェネラルダンテの思い入れが出来てしまっているので…

ジェネラルダンテのままで行かせてもらいます…

一部段落、修正させてもらいます…

ああ聖風の谷って書いてあるだけで過去だと思い込んでた…

しかし、どうしよう…いっそ破棄とか…

ああ…
(PC)
46 黒崎
>>45全然きにしなくていいじゃないですか(^^)
ふぁっちぃの考える世界なんだからそんなに固執しなくても大分面白い小説書けてるょ(^0^)/
(SH903i/FOMA)
47 faddy◆FqvO
>>46 ありがとう。

でも、このまま書いているといつか崩壊する気がするんだ…だから、少し修正するよ。ローズバトラー編と同時に修正版を投下する。
(PC)
48 黒崎
新作ホント楽しみにしています(^^)
頑張ってねぇ(^0^)/
(SH903i/FOMA)
49 faddy◆FqvO
現在執筆中。

今日の作業…ローズバトラーの衣装を考えた!
人間とは遠くはなれた形だし、考えにくい…でも、面白い!

どうしよう?もうちょっと時間かかりそうなんだけど、先に『カシェルの思い』修正盤置いていくべきかな?
(PC)
50 スプリガン
ファっちが自分で思うようにやったらいいと思うよ
読ませて楽しませてもらってるんだからさ(^○^)

個人的な思いでは新作の発表が待ち遠しい今日この頃
しかしファっちが修正した「カシェルの思い」の修正盤も楽しみにしてるんだ

いつ発表するかは投稿するファっちの自由だから

今日は新作あるかなと首をなが〜くして待ってるのも楽しいから

頑張れファっち(^o^ゞ
(P903i/FOMA)
ローズバトラー編。ひとつの設定に固執しすぎて、ずっとかけなかった。その設定を捨てたら、書けるようになってきた…でも、まだ未完成。

というわけで、カシェルの思い修正版を投下します。
(PC)
『カシェルの思い』

 ここはモンスターパーク。ルーメンから5分のところにある、魔物たちの楽園。
かつて魔王に仕えていた魔物たちは、ある者はのんびりと、ある者は充実した一日を送っていた。
(PC)
 太陽が西からさしている朝。ジェネラルダンテのカシェルは、流れ行く雲を見つめていた。なんという名前だったかは忘れたが、もくもくとした雲。ふと足元を見ると、草原が朝露にぬれて光っている。それは足に跳ね、冷たい感覚をカシェルに与えていた。
「お〜い!」
声が聞こえる。そちらをみると、鉄球魔人のタイニーがこちらに走ってくるのが見えた。
「おい、探したぞ!もうバトルトーナメントの参加者はスタイバイしろだとさ」
 タイニーはカシェルのところまで来るといった。遠くから走ってきたのか汗をかいていたが、息を切らせていないところは立派だ。
「ああもうそんな時間か…。分かった。いま行く」
タイニーにそう返すと、カシェルは走り出した。後をみると、タイニーが追いかけてきている。カシェルは走りながら、今は亡き友のことを思い出していた。
(PC)
 テリーは、カシェルが唯一親友といえる相手だった。もちろんタイニーや、他の魔物達が友人ではないという意味ではない。しかし、テリーには同族というだけではないなにか特別な感情を抱いていた。
 生まれたときからカシェルは一人ぼっちだった。母親や父親の記憶はない。カシェルは、誰にも頼らずに一人で暮らしてきた。そんな時、テリーが現れた。
「一緒に暮らさないか?」もともと孤独を好むジェネラルダンテにはらしくない言葉。しかし、カシェルはその「らしくなさ」に興味を持った。カシェルとテリーは、二人で生活するようになった。寒い日は、温かいスープを二人でつくり、火を囲んで語り合い、身体を寄せ合って眠った。その生活の中で、カシェルはテリーに心からの信頼を置くようになった。テリーも、カシェルを慕っていた。二人は、最高の友となった。しかし、そのテリーももうこの世にはいない。
(PC)
 会場に着くと、会場の魔物たちが拍手をしているのが見えた。その視線をたどると、ドラゴスライムがゴールゲートをくぐったところであった。名前は…ドランといったか。どうやら最下位だったらしく、会場にあったパンや網の片づけが始まっていた。
 昔、ドランは、カシェルに弟子入りを志願してきたことがあった。
「俺…強くなりたいんです!どうか、弟子にしてください!」
近頃はなかなか見ない燃えた目をしていた。半端な気持ちではないということがその目から読み取れた。しかし、カシェルには弟子を取る気はなかった。自分に教えられることはないと思っていたからだ。それは、自分は強いという驕りの気持ちをもちたくないということでもあった。
「お前を弟子にすることは出来ない。帰ってくれ」
その一言で十分だった。ドランは、一瞬でカシェルの真意を汲み取り去っていった。その後、タイニーの弟子になったという話をタイニー自身から聞いた。
「あいつはすごい奴だ。毎日5時間、ひたすら稽古をしても弱音ひとつはかねえ。俺の若いころにはそんな根性はなかったな…」
ドランがへとへとになってタイニーにかかっていったのをカシェルはよく見かけた。それだけではなく、ドランが毎日タイニーに内緒で自主練習をしていたのをも知っていた。そのひたむきな姿を見て、カシェルはドランに好感を抱いていた。
「まあ、ビリになったのは悔しいだろうが、くじ引きの結果だから仕方ないだろう。障害物競争で強さが競われるわけではないからな」
「まったくだ」
ガッハッハと二人は笑いあった。
(PC)
「―では、私はもう行かせて貰う」
「おう。頑張ってこいよ」
オーガーの言葉を背に受け、控え室に向かった。太陽も先ほどより高い地点にある。草原も先ほどより乾いていた。
 バトルトーナメントの開催の知らせを聞いたとき、カシェルは真っ先に出場の申し込みをした。これは、いわばチャンスだった。亡き友との約束を仮にでも果たすチャンス。この戦いで、負けるわけにはいかない。
「簡単に負けたら、許さないからなっ!」
テリーの声が聞こえた気がした。
 バトルトーナメントは、三二匹のトーナメント制である。くじ引きで戦う相手を決め、コロシアムに入場する。そしてお互いの力・技・呪文の全てを注ぎ、相手を討ち果たすのだ。相手が参ったというまで、もしくは立てなくなるまで戦いは続く。そして、全ての戦いに勝利した者が優勝者となる。
 控え室には、多くの魔物がくつろいでいた。剣を研ぐ者、ひたすら眠る者、談笑する者…カシェルはその輪に加わらず、隅に向かおうとした。
「ジェネラルダンテさんもバトルトーナメントに出場するの?」
唐突にベビーニュートに話しかけられた。
「無論。私は、この大会で優勝するつもりだ」
それだけ言うとベビーニュートから離れていく。「大運動会」で本気になるのも大人気ないとカシェルは自嘲した。しかし、それに本気になる自分が少々可愛くもあった。
(PC)
 その日も、テリーとカシェルは一緒に歩いていた。
「鳥ってなにを考えているんだろうな。木の実を割ることばっかりか?」
「なにバカなことを言っているんだか」
「そんなこというなよ〜」
二人で笑いあったとき、彼らは現れた。
 緑の頭巾の少年。野生的な雰囲気を漂わせた少年。鎖帷子をまとった老人。赤い衣装の踊り子。テリーとカシェルは、彼らに戦いを挑み、そして敗れた。
 ふと意識が戻った。隣でテリーが倒れている。辺りには、血の海が出来ている。人間と同じ、真っ赤な血。それを見る限り、テリーが無事だとは思えなかった。しかしカシェルは、目の前の緑の頭巾の少年に心惹かれていた。
「貴方の心に惚れました…」
ゆっくりと立ち上がりながら言った。口の端から血がこぼれるがそのようなことは気にしていられない。
「貴方の柔らかい心を感じました。貴方が私を殺したいというなら逆らいません。しかしもしよければ、私を使役していただけないでしょうか」
 その後、カシェルは、少年・アルスの言葉に従いここにやってきた。ここは、魔物が平和に暮らせる唯一の場所。カシェルは、このようなところを紹介してくれたアルスにとても感謝している。魔王を裏切ったことには後悔していない。人間の心を知った今、人間を滅ぼす気にはなれない。しかし、テリーを裏切ったことになるのか今でも考える。
(私は、テリーとともに逝くべきだったのだろうか)
(PC)
 カシェルは、アルスに自分が倒されたときの事を聞いたことがある。
「あの時、私と一緒にいたのは、私の親友でした。あいつは、今もまだ生きているのでしょうか…」
アルスは、その澄み切った目を細めつつ、しかしまっすぐとカシェルを見て言った。
「…今はもう、生きていないだろうね…あれだけ血を流していたら……
 でも、そのことを悲しんでいてはいけないよ。彼だって、死を覚悟して僕たちと戦ったはずだしね」
「…わかりました…」
「もちろん、僕たちも死を覚悟している。でも戦い続けるのは、世界の人々のため。」
アルスは目を見開いた。
「そして魔物たちは、魔王のために戦っている。違いはあれど、自分の信じるもののために死ぬことができるということは幸せなことなんじゃないかな」
「……」
テリーは、魔王を慕っていたわけではない。しかし、その論には納得させられた。テリーは死ぬ間際に悔いを残すような奴ではない。むしろ、強い相手と戦えて打ち死ぬということに喜びを見出しそうだ。そういう点だけはジェネラルダンテらしい奴だった。
 それから、カシェルはテリーが死んだと認めることが出来た。もともと、テリーが死んだということを感じていたのだ。なんとも表現できない感覚が、カシェルを包んでいた。
(お前のことは忘れないからな。許してくれ)
カシェルは、心の中でテリーに許しを請うた。そして、この戦いで負けてはならないという決心を固めた。それは、テリーとの約束。
(PC)
 一回戦目の相手はダンビラムーチョだった。危なげなく勝てたが、カシェルはほっと息をつく。このようなふざけた容貌のモンスターに負けてはかなわない。二回戦目はメタルライダーとの試合だった。剣の腕はなかなかのものだったが、いかんせん一撃の重さが違った。メタルライダーが上段から思い切り剣を振り落としたとき、カシェルはメタルライダーの腕の中にもぐりこみ剣を弾き飛ばした。カシェルがメタルライダーの頭に剣をかざしたところで、メタルライダーは負けを認めた。その勢いで勝ち進み、カシェルは決勝戦まで勝ち進んだ。そして、テリーとの思い出を回想した。
(PC)
「ま、参った!」
倒れているのはテリーだった。その視線の先には、既に剣を鞘に納めたカシェル。
「ひゃあ〜負けた!適わないな。やっぱりお前強いな」
「まだ貴様に負けるほど堕ちぶれてはおらん」
そういってにやりと笑う。
テリーは立ち上がり、カシェルの隣に並んだ。
「おいおい言ってくれるじゃんか」
テリーもにやりと笑う。
 カシェルは草原に腰を下ろした。テリーも一緒に座る。草は丈が短く、地面に張り付くように生えていた。その慣れた座り心地は、二人の心を静める。
 空を見上げてみた。雲に隠れた月が申し訳程度に光っている。ここは、封印された土地。精霊の力を恐れた魔王が、聖風の谷に封印をかけたのだ。太陽が失われたため、草木は細り、人間達には、活気が失われていく。
「―なぜ魔王様は何故人間共を滅ぼそうとするのだろうな」
「俺はそんなこと興味ないな」
素っ気なく一言で返されカシェルはずっこけそうになる。
「!?貴様、折角私が真面目な話をしようとしているところを!」
「ああ悪いな。お前のこと考えててさ」
テリーは足を組みなおした。
「でも、正直いって興味がない。人間にも興味ない。こうしてお前と戦っていると思うんだよ。強さを磨くって楽しいってさ。自分の精神がより練り上げられてくって感じ。なんか毎日が充実しているんだよな」
「…お前らしくない言葉だな」
「人間で言う騎士道って奴かな」
テリーからそんな言葉が聴けるとは思わなかった。相変わらず何を考えているのか分からない。
(PC)
「まあ、魔王に文句があるなら、お前が魔王になればいいんじゃないか?」
「なにバカなことを」
「強さを磨いていっての最高の目標は魔王だろ。全ての魔物を率いる王者」
テリーは自分の言った言葉に酔っているようだった。
「お前が魔王になったら、俺は副将軍くらいにしてくれよ…」
「…貴様には任せたくないな。その時は、私が全ての指揮を執ろう」
「おいおいやる気だな。よ、次期魔王!」
テリーは調子がいい。そして、一人でどんどん盛り上がっていく。しかし、カシェルはなんとなくそのノリに合わせて見たい気分だった。
「よし分かった。私は魔王になってやる。魔物達を統べる最強の王になってやろう!」
「副将軍のこと、忘れるなよ。約束だぞ!」
「どうしてもというならしてやらんこともない」
二人は笑いあった。
 月も既に沈みかけていたが、太陽は昇らない。その後二人は酒を飲み、そして眠った。そして次の日、カシェルとテリーは別れることになったのだ。
 この時の約束に今でもカシェルは縛られている。魔王なんてテリーもカシェルも本気ではなかった。しかし、これはテリーとカシェルの最後の約束だった。その約束を、このトーナメントで優勝することで仮にでも果そうとしている。魔物の中で最強という称号が欲しかった、それだけである。実際は、このトーナメントで優勝しても最強とはいえないだろう。しかし、この大会で優勝出来ないようだととても魔王とは呼べない。カシェルは、優勝するという決心をさらに強めた。
(PC)
 決勝戦は大運動会の最後の種目として行われた。
 「決勝戦!両者、前へ」
メルビンの号令とともに会場に入る。周りから大きな拍手が沸き起こる。観客席を見回すと、魔界ファイターが賭けを仕切っているのが見えた。
”ジェネラルダンテ、倍率7.5倍 ナイトキング2倍”
と書いてある看板が見えた。 さらに見直すと、死神貴族が怪しい笑みを浮かべていた。眼があるわけではないのに、なにか企んでいるかのような怪しい視線を感じる。ほおを歪め、全てを見下すように見ている。そんな感じがした。
 目の前に立っているのはナイトキングだった。身体が腐敗しきって骨と化した魔物。高名な魔法使いが、更なる魔力を得るために魔族に魂を売った姿ということを、昔風の噂で聞いた。
「こら負けんなよ!」タイニーの声が響いた。「叩きのめしてやれー!」「ナイトリッチ頑張れ!」「ソロモン!ソフィアはお前をいつでも見ているぞ」「ゾンビの王は負けないんだー!」 決勝戦だからか、観客達もとてもわきだっている。
「試合、始め!」
メルビンの声が会場に響く。
身体ひとつの間合いでお互いの動きを牽制する。相手の呼吸、視線を観察し攻勢に出る機会を図っている。
 先に動いたのはナイトキングだった。
「わしは…負けるわけにはいかない!」つぶやく様な声ながらしっかりと聞こえてきた。右手の剣でカシェルの肺をついてくる。剣の鎬で左にうけながしながら、右に飛び避けた。
(しまった)突きは単なる牽制だった。体重を全く込めていない。突いた剣を返して地面に切り下げ、カシェルの首を狙ってくる。殺す気で攻めているのだ。咄嗟に落ちてくる腕に剣を刺した。ナイトキングの剣の動きが止まった。
 ナイトキングが一瞬不気味な笑みを浮かべた。剣を腕に刺したまま左手で抱え込む。
(!?)抜けない。ものすごい力だ。骨であるがゆえに剣と身体の接触面積は小さい。しかしナイトキングはその小さな部分で剣を封じているのだ。
 ナイトキングは剣を持ち替えた。剣がカシェルの胴を薙ごうとする。カシェルは手を離し後ろに跳ねた。カシェルは剣を失った。
(PC)
 ナイトキングは剣を腕から抜いた。そして、カシェルに剣を投げた。足元に剣が転がる。
「―何故剣を返す」
「剣のない相手に勝ったとしてもソフィアに顔向けが出来んでの」
「敵に情けをかけてもらうのは情けないものだな」
「嫌だったかな?」
「貰った恩は受けておく。感謝する」
 足元の剣を拾い、一度鞘に収める。
「言っておくが、わしはお主を殺す気でおる」
「それは分かっている」
「運動会だから可愛い戦いで済ませようとは思わないのじゃ。わしには勝たなければいけない理由がある。そしてきっと、お主にも何かしらの思いがあるのじゃろう。真剣な勝負、命を懸けて戦いたい」
「言うとおりだ。承知した。この命をかけて、貴様を討ち果たしてくれよう」
「分かってくれて嬉しいぞい。では…再び戦闘開始じゃ」
 そういうとナイトキングは一気に間合いを詰めてきた。剣を斜めに切り付けてくる。カシェルは身を屈め、足元を突いた。
 ナイトキングは、カシェルの剣の動きを見抜いたのだろう、剣があたる寸前で飛び上がった。空中から左手の盾を投げる。
 巨体が宙を舞うとはカシェルの予想外だった。飛んでくる盾に一瞬カシェルは眼を奪われた。盾は、カシェルの左足にぶち当たった。痛みに一瞬ナイトキングから気がそれた。
 ナイトキングは空中で剣を両手逆手持ちをしていた。全体重を剣に込め、カシェルの脳天を砕こうとする。
 カシェルは我に返り、身体をそらしながら剣で凌いだ。全体重がかかっているため、とても重い。それを左手一本で凌ぎきれるわけもなく―――――
(PC)
 右肩が軽くなった。血が噴き出す。意識を失いそうなほどの痛み。カシェルは左に倒れこんだ。
「右腕が飛んだようじゃの」
ナイトキングの言葉で初めて右腕がなくなっていることに気付いた。右を見ると、血だらけの肉塊が転がっている。それを見ていっそう痛みが強くなった。頭が割れるように痛い。
「―――
ナイトキングが何か言っている。メルビンが動いている気がする。しかし、カシェルには聞くことが出来なかった。カシェルは意識を失いかけた。
「なんであきらめるんだよ」テリーの声が聞こえた。
「今は人間達の世界で幸せにすごしてるんだろ?その幸せを捨てんなよ。まだ負けたわけじゃない」いつもの声で語りかけてくる。
「まだ左手があるじゃないか。お前は魔王になるんだろ?例え腕を失っても顔色一つ変えないのが魔王だろ」
(テリー…)唯一の親友の声。それはカシェルの頭の中に直接響いてくる。
「ほら立てよ。諦めるにはまだ早い。立ち上がれ、カシェル!!」
 カシェルは目を開いた。
「私は…負けない!」
血はまだ流れていたが、ゆっくりと立ち上がる。
「驚いたの。まだ立つとは。止めを刺しておけばよかったわい」
カシェルは剣を構えた。腕は減ったものの、逆に軽くなって戦いやすい。
(テリー…お前の気持ち、しかと受け取った。力を、貸してくれ……!)
「おりゃあ!」
 気合の声を出す。そのときには既に腕の痛みは消えていた。
 今度はカシェルが先に動いた。まっすぐと駆け、胴を貫こうとする。
「ぬぅっ!」
 ナイトキングが驚きの声を上げる。先ほどとは段違いのスピードだ。咄嗟に盾を掲げたが、剣は盾を砕いた。
 ナイトキングは動けないままだ。自らに迫りくる剣を虚ろな目で見ている。
「どりゃああああ!!!!」
 カシェルは、身体ごとナイトキングにぶつかっていった。
(PC)
 ナイトキングはまだ立っていた。しかし、その腹には深々と剣が突き刺さっている。
「わしは…死ぬのか…ソフィア…」
ナイトキングから生命感が失われていった。弱弱しい声。それはまさしく寿命が尽きる老人の姿だった。
「お前は最高の相手だった。最後に、名を聞こう」
「わしは…ソロモン。妻を裏切った最低の男よ…」
そこまでいうと、ナイトキングは崩れ落ちた。魂を失った身体は風化し風に溶けていく。
「それまで!勝者、ジェネラルダンテ!」
メルビンの声が聞こえた瞬間、カシェルは視界が歪むのを感じた。
(お前は…魔王だ…魔物たちを統べる最強の…)
どこからか声が聞こえた。誰の声だろうか。
(そうだ…私は魔王…テリーとの約束を果たしたのだ…)
カシェルは、突然意識を失った。
(PC)
 既に日は沈もうとしていた。草原も赤色に見える。
興奮冷めやらない魔物たちが集まる中、閉会式が行われた。アルスが各種目の表彰をしていく。最後に、バトルトーナメントの表彰。
「優勝、ジェネラルダンテ!」
アルスが言った。周りから大歓声が聞こえる。カシェルは、アイラから黄金に輝くメダルを受け取った。
「カシェル、感動したぞ!お前はやはり最高の戦士だ!」
タイニーの声だった。それ以外にも勝者カシェルをたたえる声が響いてくる。
「ナイトキングとジェネラルダンテの戦いはとても素晴らしかった。僕も涙が溢れてきたよ」そういうアルスの目には本当に涙が浮かんでいた。静まりかえった会場からもすすり声が聞こえてくる。
「みんな、腕を失ってなお戦ったジェネラルダンテのカシェルと、戦いで命を散らしたナイトキングのソロモンに、もう一度大きな拍手をしよう!」アルスの声で、会場全体が沸いた。誰もが拍手を惜しもうとしない。キングタートル、モシャスナイト、ギガントドラゴン…
(テリー…今日は助かった。勝てたのはお前のおかげだ。私は、お前のことを忘れないからな)
カシェルは心の中で手を合わせた。そして、第二の親友と呼ぶべきソロモンのことを考えていた。
(PC)
あげ

ほとんど変わっていませんが、また読み直していただける人がいたときのために、少しだけ関係ないところも手を加えてあります。

ローズバトラー編お楽しみに!
(PC)
68 faddy◆FqvO
あまりの書けなさに悶絶age
(PC)
69 ジュドー◆goat
>>68読ませていただきます。

途中ですが、まとめて一気読みのリンクを貼ってもらえませんか?

汚してすいませんm(_ _)m
(W44K/au)
70 黒崎
ふぁっち…
楽しみにしてるよ!


かるくプレッシャー(¨;)

頑張って(^O^)/
(SH903i/FOMA)
71 faddy◆FqvO
『星のダンス大会!』

 はるかなる昔。闇のドラゴンに襲われて、ヘルバオムに襲われて、虫の大群に襲われるという、住むのになんか不安になるランキングで言えばぶっちぎりで一位になれそうな町、ルーメン。そこからちょっと南にいってみると、モンスターが、おだやかに、華麗に、あるいははちゃめちゃに暮らしてるのが判ると思う。
 そうそこは、モンスターパーク!モンスターの楽園である!!
 でも、そこに住むモンスターはなんだかみんな個性が強い…
(PC)
72 faddy◆FqvO
 その個性の強いモンスターのなかでは貴重な、常識的なモンスターの1匹が、あたし(ローズバトラー)。で、今は…
ぶーん。ぶーん、ぶーん。
 あたしの周りでポイズンバードが飛んでいた。
ぶーん、ぶーん、ぶーーーん。
あたしの頭にポイズンバードがとまった。
こそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこ
「うざったいんじゃああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「いやあもう春だし〜そろそろ産卵しようと思って〜」
「あたしに産卵すなあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
勝手に産卵するなんて無礼千万!!!ちょっと絞めてくれる!!!!!
あたしはツタを振り回し、ポイズンバードを捕まえようとする。しかしポイズンバードは、ひらりひらりとかわす。ああまどろっこしい!!!!
「こらあ黙って捕まれ!!!」
あたしはむきになり、ツタをあたりにむちゃくちゃに振り回す。後ろか!?そっちか!!??
しばらくツタを振り回して、一息ついて辺りを見たら…
あやつは一歩はなれたところであたしを冷ややかに見ていた。
「なんだか怒ってるみたいだし、やめとくよ〜。じゃあね〜」
あやつは、茫然とするあたしを尻目になんか向こうのほうへ行ってしまった。
 …なんなのあいつは。汗かいちゃったじゃない。まあ、準備体操くらいにはなったかな。じゃあ、早速ステップの復習から始めようかな…
(PC)
73 faddy◆FqvO
 今日は、モンスターパークの大運動会が開催される日であった。野球大会や、バトルトーナメントの競技によって、出場者がお互いの運動能力を競い合うのだ。その競技のひとつに、ダンスコンテストがある。
 ダンスコンテストは、ジャンルの別なく全員が同じ種目で踊る。まあこの狭いモンスターパークだし、競技人口が少ないから仕方ないだろう。そうして、審査委員長アイラさんと数人の審査員による審査委員会が点数をつけて、点数が多いものから二回戦・三回戦と勝ち進んでいく。
 あたしは、このダンスコンテストに出場するのだ。もちろん、狙うは優勝のみ!そのために、あたしは今まで趣味として続けてきたダンスの知識や技術を全て注ぎこんだダンスを開発した。でも、いろいろと難しいダンスになってしまったから、いろいろと練習しなきゃいけなかった。
 暑い盛りの火山で練習をしたこともあった。冷える墓場の館の底で練習をしたこともあった。 …今考えてみると…
「この狭いモンスターパークの中に、なんでそんなにいろいろな地形が同時に存在できるのよ!火山のすぐそば海底公園なんておかしいでしょ!」
 考えてみると、謎過ぎる…神様が力を貸したとしか考えられない…
(PC)
74 faddy◆FqvO
「ワン・ツー・スリー・フォー、ファイブ・シックス・セブン・エイト…」
 あたしが、夢中になって練習をしていた。今までの練習の甲斐あって間違えることはない。今日になってからの上達は望めるものではない。たんに、最終確認をしているのだ。
 あたしの目の前で、ベビーゴイルが宝箱を大事そうに抱えて飛んでいく。
「…何なのそれは?」
あたしは練習を中断して、ベビーゴイルに話しかけた。
「これは、アルスおにいちゃんにプレゼントするんだよ!おじちゃんにもらったから、なにがはいっているのか知らないんだけどね♪」
 ベビーゴイルは無邪気に答えた。
 アルスさんにプレゼント…「おじちゃん」からもらったもの…なかなかの高額商品かも知れぬっ!
「それ、欲しいなー。」
本音が、ついついこぼれてしまった。うん、事故だ。間違いない。
「欲しいの?じゃあ、あげるよ!」
ベビーゴイルの一言ににんまりとする。
「いいの?いいのね?そう、ありがとう!!!大事にするわ。中身がなんなのか気になるけど。あ、アルスさんには、あたしから花束でもつくってもってくから安心してねー」
「軽くなっていいや。大事にしてねー」
あたしは機関銃の如く話して、にっこりと笑う。ベビーゴイルも無垢な笑みでにっこりする。なんだか、騙してるみたいで良心が痛む…
「じゃあねおねえちゃん!」
ベビーゴイルは会場のほうへと飛んでいった。
(PC)
75 faddy◆FqvO
 さあて…宝箱のチェックでもするか…なかなか重いな…アクセサリや宝石の類じゃないと思う…石かな?隕石とかだったら結構高価だよね…もしくは、魔法のアイテムとか…剣や盾という可能性もあるな…
 あたしが、そろそろ宝箱を開けようとしていると、突然後頭部に衝撃を感じた。
「こら何をしている!ボーっとしてるんじゃない!」
 振り向くと、そこにいたのはパペットマン。あたしのコーチのアダムスだった。
「痛いじゃないの!」
「もう、ダンス大会の出場者の集合時間だ!!」
「え?もう?」
「スライムレースの応援が終わって、遅いと思って来てみたら、君がにやにやと気持ち悪い笑いで宝箱を眺めていた時の私の悲しみ、君にわかるのか!!」
「はうっ!!」
 そんなに気持ち悪い笑顔を見られていたとは…痛い!
 「わかったら、さっさといくぞ!」
「…分かりました…」
(PC)
76 faddy◆FqvO
あたしは、ここに来る前から趣味としてダンスをしていた。誰かに習ったことはなかったから、自己流だった。それが、ここに来た後アダムスと出会ったのだ。アダムスは、あたしでもわかるくらいうまかった。だから、アダムスから弟子にならないかといわれたときは嬉しかった。でも…
 アダムスは…身体は木のがらんどうのくせに、いまさら一昔前のスパルタ教育をするという熱血漢。つまり…ちょっとイターイ奴だったのだ。ダンスに必要な筋肉を鍛えるといってチューブを引かせたり。こいつの指示で、火山にいったり墓場にいったり…意味がわからない。
「限界なんて考えるな!ダンスは、筋肉だ!!筋力があれば、何でも出来る!!」
そういうとアダムスは体をばらばらにして、また組みなおすという生物未踏の踊りをして通りすがりのれんごくまちょうにジト目でみられるということもあった。
 ………さっきの言葉、「ちょっとイターイ」から「かなりイターイ」に変更。


 あたしの衣装は…淡いクリーム色の綿の布を体にまきつけトレーナーとする。ツタがちらつく足には、デニムのスカートをたなびかせる。頭にはスノウ・ホワイトのバンダナを巻きつける。そして締めに、一本一本のツタの先に濃紺のブレスレットを装着する。
 実は、この衣装はアダムスが考えたものだ。この衣装はあたしも結構気に入っていたりする。
 あたしは、一回戦の前半組で踊った。正直、始めたばっかりのひよっこには負ける気がしなかった。踊りながら、他のモンスターを見回す余裕もあった。あんまり上手く見えない。
 しばらくののち、結果発表。あたしは二回戦に勝ち進むことが出来た。その後もあたしは勝ち進み…あたしは、決勝戦に進出した!!
(PC)
77 faddy◆FqvO
 あたしが控え室に戻ると、アダムスがいた。
「なんだかんだで、気がつけば…決勝戦じゃない!」
「そうだな。とりあえず頑張れといっとこう」
「なんだか、テンション上がってきた〜!!!」
「決勝戦に進出したのは3匹か。…やっぱり、あいつがきたか」
「・・・え?誰だかまだ知らないんだけど」
「チェリーとは昔との仲でな。魔王に従っていた頃からお互いのことは知っていた。それがここでまた逢えるとは思わなかった…ああ、チェリーというのはあのリップスのことだ」
「ふーん…魔王に従っている頃からねえ…」
「君はないかも知れないけど…私は、魔王にあったことがある」
「…へえええ…」
「それで知ったことなんだが…魔王には、女装の趣味があるのだよ」
「うん。…え?」
「人間の女の格好に変身して踊っていた。あの踊りには、誰も敵わなかったな…しなやかな筋肉が艶かしく蠢いていた…おっと話がずれた。ファイナリストは、君と、チェリー、地獄のピエロか…」
「魔王のことも気になるんだけど…あんたの筋肉至上論はそこからでてきたの…」
「またいつか話してやる」
「楽しみにしてるわ。で…地獄のピエロさんも?あの人、ダンスうまいの?」
「聞いたことはないが、見たところ実力は平均を軽く凌駕しているな」
「相手が誰だろうと、あたしはあたしのやりたいようにやるだけよ!」
「うむ。その心意気だ!」
(PC)
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 あたしは控え室から出て、外の空気を吸っていた。
「ついに決勝戦。ああ緊張してきた…落ち着けあたし…観客は…全部ナスビナーラよ…対戦相手は…カニ男ってことでいいわ…」
 あたしがぶつぶつ言っていると、いきなり声が聞こえた。
「すみませーん。ボクのオノ見かけませんか?」
デブッチョの黄色いモンスター。ブッチョマンだ。
「あの〜。オノ見かけませんか?」
「うーん。分からないわ…ごめんね」
「そうですか…ありがとうございました」
そういうとブッチョマンはそのままどこかへ歩いていった。
 んーーーー…オノといえば、自分の力に合わないオノなんて振り回していていいのかね?振り上げるのにも苦労しているみたいなんだけど。やっぱり、筋力が足りないんだろうな…そういう時は素振りでもして腕力を鍛えなきゃいけないんじゃないかな……
 はっ!なんだか、アダムスに考え方が近づいているっ!あんな、スーパーイターイ様と同類なんて…ぶるぶるぶるぶる…………!


「そろそろか…やることはやった。まあ、落ち着いていこう…」
 あたしは、あらかじめ指示されていた場所に向かった。待合地点には、会場係らしいメルビンさんと、2匹ともが集まっていた。
 リップスの衣装は…とても露出度が高い。もともと魔物は素っ裸な物だから別にいいんだけど。その大きな唇は、ストロベリーカラーに光っている。そして、藍色の水着をまとっている。ブラを巻いているようだから、そこに胸があるんだろう。
 地獄のピエロさんの衣装は…なんと、普段と全く変わらない。普段から化粧濃いし、別にいいんだけど…ダサいなあ。禍々しい青だし。肌は、生命感のない白。いつもぐるぐるやってる目玉は、ポケットとおぼしきところにまとめてしまわれている。
 無言で視線を交わす。ダンス大会という一見優雅に聞こえる代物でも、その出場者はお互いに敵対心を滲み出している。
「あんたら?」
リップスが突然声をかけてきた。
「ど、どうしたの」
「あんたら、よくここまで来れたね。でも、あんた達の腕じゃあたいにゃかなわないよ。恥かかないうちに棄権したら?」
…むっかー!!!!単刀直入すぎて、うっわー!!!!!
「ちょ…そ、それ」
激情して、いいたいことが言葉にならない。
「ま、いいたいことはそれだけ。あんたもう黙ってね」
「つっ、って、ちょ…もー!!!」
黙っていわれて、返すチャンスを失ったし…そもそも、声かけて来たのあんたでしょ!もーなんなのよ!!!
 地獄のピエロさんは、最初から相手にしてなかったみたいだった。それが一番の対応だったんだろ…ああむかつく!!リップスだけには絶対勝ってやる!!!
(PC)
79 faddy◆FqvO
 しばらくして、開始時刻になった。
「ではそろそろでござる。司会が入場の合図をしたら、扉が開くので入場するのでござる」
「確認した」
地獄のピエロさんだけが返事をした。
「レディース・エンド・ジェルトルメン!お待たせしました!ダンス大会いよいよ、始まりまーす!!」
司会の声が頭上から聞こえた。魔法の力で声を伝えているのだろう。誰の声だかわからないが、フライングデビルの声に似ている気がした。
「ぃぃぃぃいぇええええええええぇぇぇぇぇ!!………」
厚い壁の向こうからかすかに歓声が聞こえた。祭り好きな魔物たちが見物に来ているみたいだ。
「では、早速始まりまーす!出場者の、入場ーーーー!!!」
メルビンさんが、重そうな木の扉を開ける。
 あたしを先頭に、リップス、地獄のピエロさんの順で入場する。目の前に広がる多くの魔物たちの視線が、こちらに集まっているのを感じる。左手には、アルスさんがすわる主賓席と、アイラさんと数人の審判がすわる審判席。目の隅に、「キャシー優勝」と書いてある張り紙が見えた。それを持つのは、ブチュチュンバ、マジックリップス、おばけうみうし。…同系の誼だろうか。
 そして、舞台隅の選手席に座った。正面には、「リップス、1.5倍 地獄のピエロ、2倍 ローズバトラー、8倍」と書いてある看板があった。一番不人気…ちょっと悔しい!


 アイラさんのお話が少しあったあと、司会の声が響いた。
「では、早速競技開始です。最後にエントリーした彼女。その体は、血の色で染まる。しかし、そのダンスはしなやかかつ繊細。エントリーナンバー6番!!ろーーーーーーーーーーず!ばとらーーーーー!!!」
 あたしは立ち上がり、舞台真ん中に歩み出た。スカートが翻る。観客達の拍手が聞こえるが、さっきより小さいみたいだ。みると、赤い髪の人間がトゥーラを持っているのが見えた。
 …やるっきゃない。あたしは、自分のブレスレットの付いたツタを見つめていた。
「曲は『愛する人へ』です。では、踊ってもらいましょう」
司会の声の後、舞台隅から『愛する人へ』が聞こえてきた。あたしは、ツタをあげて踊り始めた。
(PC)
80 faddy◆FqvO
 やれることはやった。それが、審判にどう届いたのかは判らないけど。
 司会の声が、会場に響く。
「続いては、この男の登場です。目玉くるくる。目玉くるくーる!!!!!!!!!エントリーナンバー8番!!地獄のーー!!ピーーーーエーーーーローーーー!!!!」

 ずでででんでんっ!

「なにその適当な紹介わっ!!」
 思わず、あたしは突っ込んでいた。それにかまうことなく、観衆は大盛り上がりだった。
 地獄のピエロさんは、会場に出て行った。それを見送っていると、腐った死体が視界に入った。
 自分が踊り終わって、緊張感が途切れていたのかもしれない。
何を考えてるんだかわからない顔。
 それを見て、あたしは、ある日のことを思い出していた。
 

 あたしは、ツタでチューブを引かされていた。
「こらボーっとするな!またやつらの手を差し向けるぞ!」
アダムスがなんか喚いている。あたしは、動く気力もない。
「毎日、筋トレばっかりで、練習になりやしない…もういやになった」
「ふむ…さすが気が強いな。私の説得に応じないとは」
「どこが説得じゃあ!!!!!」
「しかし、こいつらの魔の手にかかってもいいのかな?」
あたしの華麗なツッコミをシカトして謎の言葉を吐くパペックマン。
「こいつらってなによ」
「ふふふ…異形のその姿を汝恐れるべからず。彼の者を受け入れろ…」
腐った死体が現れた!デスクリーチャーが現れた!腐った魔獣が現れた!マルチアイが現れた!
「出でよ!ぐじゅぐじゅーズ!!!」
「なんちゅうネーミングセンスじゃああああああ!!!!!!!!」
「これでもまだやめるなんていうのか?」
「……もう、どうにでもして…」
あたしはもう、このスーパーイターイ様に反抗する気をなくしていた。
(PC)
81 faddy◆FqvO
 大きな拍手が響いた。あたしは我に返った。
「!?しまった!!」
あたしが最悪の思い出を回想している間に、地獄のピエロさんは踊り終わっていたようだ。
「…なんだこりゃあーー!!」
あたしの視界に入ったのは…

  一面に散らばった、真っ青な鮒。

 会場のあちらこちらに鮒。鱗が青く光り、目の前を真っ青に染めている。
「ふーな!ふーふーな!ふーな!ふーふーな!…」
 観客席の魔物たちは、手に、もしくは肩などでふなをもって左右に振っている。ショックなことに…
「ああああああああ…アイラさん、あなたもデスカ…」
 アイラさんも、鮒を大きく左右に振っていた。な、何があったんだー!!!!!!!!
 何事もなかったように、地獄のピエロさんは目玉クルクルさせながら戻ってくる。それを見た観客達は、鮒を懐にしまう。会場も、魔物たちにより片付けられていく。
 なんだか、聞いちゃいけない何かが起こったんだろー…うん。知っちゃいけない何かなんだ!
(PC)
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「最後は、その踊りは魔王をも唸らせた。ダンスのためは身を捨てる、実力は折り紙つき!!!エントリーナンバー1番!!リップスゥゥゥゥ!!!!!」
 隣のリップスが進んでいった。それを見ていた地獄のピエロさんと目が合う。
 地獄のピエロさんは、こちらを無言で見ていた。その顔からは、メイクに隠れ何の表情も読み取れない。なんだか、具合が悪くなったので、舞台のほうを見直した。
「曲は、『街』です。では、どうぞ!」
『街』?聞いたことがないな…
 音楽が始まった。リップスは……
「はあっ!!!???」
……扇子を両手に持っていた。
真っ白な扇子に、真ん中にどでんとした日の丸。
「らんらっらーらんらっらー」
……リップスは、何を考えてるのかわからない、なんともいえないがなんとなくイメージできそうなよくわからない表情をしている。
あたしは思わず目を背けた。
すると、会場中に響かせて、声が聞こえてきた。
「もりそば様、うおのめ様、薫様…至急、本部席までお越し下さい」
「キャシー優勝」の看板を持っていたブチュチュンバ、マジックリップス、おばけうみうしが立ち上がって動いていく。
………うおのめって…

なにやねん!!!!意味わからんわ!!
(PC)
83 faddy◆FqvO
 何一つ躍動感のない踊りが終わって…次は、結果発表だった。
 リップスには勝てたと思う。あの踊りの、いいところが見つからない。
 あたしの踊りに、ミスはなかったはずだ。でも、もしかしたら、ミスはなくても魅せる要素があったか…と思うと不安になる。
 地獄のピエロさんは判断が出来ない。会場中をひとつにした…踊りってレベルじゃないって感じ…本当に、踊りをしていたのだろうか。
 アイラさんが舞台に立った。会場に静寂が訪れる。
「今日はありがとうございました。あなたたちのダンスを初めてみるので少し不安だったけど、思ったよりはるかにレベルが高い戦いで驚きました。…では…発表です!」
ついに…発表だ…
「優勝は…」
ごく。
静まり返った会場中に、あたしの生唾が聞こえているような気がする。
「ローズバトラー!」
頭の中にそんな声が響いたような気がした。
 自分が勝ったと言うイメージを持とうとする。しかし、不安がそれを打ち消す。
「地獄のピエロ!」
今度はこんな声。
最初から、負けたというイメージを持っておけば、いざというとき、あまり悲しまずに済む。しかし、それがどれだけちがうかというとたいした量ではない。それに、そんな後ろ向きな考えはなんとなくいやだ。


「審査員全員一致で…」
アイラさんが言った。圧倒的ということか。

「リップスです!」
アイラさんの声が観衆に届いた。それやまもなく会場はどよめいた。
「……っ」
言葉にもならなかった。負けたという実感はわかない。ただ、理由がわからない。どこが上手かったとか、せめてもの理由があれば…
「2位はローズバトラー、3位は地獄のピエロです!」
…2位らしいけど…喜ぶ気になれない。納得がいかない。
「静かに!」
アイラさんの一声で会場のどよめきは消えた。
「みんな、少し納得がいかないのかもしれない。でも、リップスのよかったところはね。
 激しさはない。でも、目をひきつけられるリズム。思わず見たくなる艶かしい動き。それは、日常のなかの小さな幸せを感じさせる。これが、万人のための踊りだと思う。
 激しいだけ、楽しいだけのダンスは、心に残らない。それは、何を伝えようとしているか判らないから。でも、リップスの踊りは違った。みんな、そう思わない?」
さっきまで騒いでいた魔物たちが、今度はうなずいている。
 あたしは…なんか、そういうものかって思えてきた。つまり、パンチがなかったってことか…
 もうどうでもいいや。疲れた…
(PC)
84 faddy◆FqvO
「なお、ストーンビーストに、審査員特別賞を差し上げます。
 では…最後に、みんな踊ろう!」
ん?
アイラさんが合図をすると、音楽が流れてきた。
「みんな会場に降りてきて!」
戸惑っていた魔物たちも、音楽に押されて降りてきた。
「曲は、『トゥーラの舞い』です!上手さなんてどうでもいいから、レッツ・ダンス!」
アイラさんが、踊り始めた。
 それをみて、魔物たちものそのそと踊り始めた。
「あんた?」
声が聞こえた。この声は…
「優勝、お・め・で・と・う!とても上手くて、あたしなんかとても敵いませんよ!」
リップスだった。
「いやいや、いやみを言いに来たわけじゃないよ」
「え?」
「あんた…なかなか上手いじゃん」
思いもよらない言葉だった。
「あたいも今回は少し特殊な踊りしたけど…今度は、正統派ダンスで戦おうじゃないか」
「…望むところよ」
「ああ。また、よろしくな」
リップスが手を差し出してきた。
 あたしは、ツタを出してその手を握る。
「じゃあな。練習サボんじゃないよ」
「…はい!」
 手を離して、リップスは魔物の雑踏に消えていった。
…思ったよりいい奴なのかも…
 魔物たちは、すでにノリノリで踊っていた。リズムに乗れていないのもいる。でも、みんな、楽しそうだ。
…いまはどうでもいい。
楽しく踊れれば…いいか★


おしまい
(PC)
85 faddy◆FqvO
投下終わり★

しかし…前回より、とても長く間を空けてしまいましたね…リップスのネタだとか、いろいろ考えていたんです…

今回は…少し読むと分かると思いますが、スレイヤーズを基調に置いてます。

リップスのネタは、いろいろ案がありました。ダチョウ倶楽部案があったのですが、書けない&世界観壊すでアウト。ムーディー編、栗山編も考えたのですが…最終的に、柴田亜美エンドでした。

長すぎて、一度書き直したのですが…また、超長になりましたね…腕が、足りない…

誤字脱字及びストーリー上の矛盾点、違和感を感じたなど改善案があったら遠慮せず教えてください。

>>69 

『星のダンス大会!』>>71-84
『カシェルの思い』>>52-66
『孤高の罠魔物』>>27-34
『小さな恋のものがたり』>>2-21 
どれも、平行した話ですので、順番は決まっていません。好きな順番でお読みください。

だれか、援護小説を書いてくれると喜びます!ぜひどうぞ!お願いします!
(PC)
見てもらわずに下がっちゃったけど・・・faddy泣かない!
(PC)