2 faddy◆FqvO
『小さな恋のものがたり』
ここはモンスターパーク。ルーメンという町のとなりにある、モンスターたちの楽園です。
ここに集まるモンスターたちは、昔は魔王の命令で悪いことをしていましたが、
モンスターパークの管理人アルスさんにやっつけられてからアルスさんになついて
ここにやってきました。だから、みんなアルスさんのことをとっても尊敬しているんですよ。
ここはモンスターパーク。ルーメンという町のとなりにある、モンスターたちの楽園です。
ここに集まるモンスターたちは、昔は魔王の命令で悪いことをしていましたが、
モンスターパークの管理人アルスさんにやっつけられてからアルスさんになついて
ここにやってきました。だから、みんなアルスさんのことをとっても尊敬しているんですよ。
(PC)
3 faddy◆FqvO
ある晴れた日。モンスターパークで、大運動会が行われました。
キラーストーカー、メランザーナ、れんごくまちょう、プロトキラー…
一見怖そうなモンスターも、見るからにかわいいモンスターもみんなにこにこしています。
スライムのスラオくんはスライムレースに出場します。
一緒に走るのは、スライムベスのスラミちゃん、ドラゴスライム君、スライムナイトさん、はぐれメタルさんです。
スラオくん、今日まで一生懸命練習してきました。はぐれメタルさんには勝てなくても、
2番目をとりたいと思って、毎日高く跳ねれるようにがんばってきたんです。
今日になってスラオくん、とっても緊張しています。
スラミちゃんも、「スラオちゃん、一緒に頑張ろうね!」って言ってくれているのに
スラオくんは聞こえていないみたいです。
そろそろレースが始まるみたいです。スラオくんはスタートラインにつきました。
アルスさんの合図でレースは始まります。
「よーい、ドン!」
アルスさんが言うと同時に、みんな一斉にスタートしました。
今回のレースは、障害物レースです。途中にはさまざまな障害があります。
といっている間に、はぐれメタルさんはすでに最初の障害物に入ったみたいです。
最初の障害物は網くぐりです。うまくくぐらないとからまってしまいます。
はぐれメタルさんは、その網の下をあっという間に潜り抜けました。
遅れて、ドラゴスライム君とスライムナイトさんが網に入りました。
ドラゴスライム君は普段飛んでいるので網の下を通るのに苦労しています。
スライムナイトさんは、ナイトの手足が網にからまってしまったみたいです。
そこからさらに遅れて、スラオくんとスラミちゃんがやってきました。
そこはやわらかいスライム、網をくぐるのは楽チンです。するんと抜けることが出来ました。
キラーストーカー、メランザーナ、れんごくまちょう、プロトキラー…
一見怖そうなモンスターも、見るからにかわいいモンスターもみんなにこにこしています。
スライムのスラオくんはスライムレースに出場します。
一緒に走るのは、スライムベスのスラミちゃん、ドラゴスライム君、スライムナイトさん、はぐれメタルさんです。
スラオくん、今日まで一生懸命練習してきました。はぐれメタルさんには勝てなくても、
2番目をとりたいと思って、毎日高く跳ねれるようにがんばってきたんです。
今日になってスラオくん、とっても緊張しています。
スラミちゃんも、「スラオちゃん、一緒に頑張ろうね!」って言ってくれているのに
スラオくんは聞こえていないみたいです。
そろそろレースが始まるみたいです。スラオくんはスタートラインにつきました。
アルスさんの合図でレースは始まります。
「よーい、ドン!」
アルスさんが言うと同時に、みんな一斉にスタートしました。
今回のレースは、障害物レースです。途中にはさまざまな障害があります。
といっている間に、はぐれメタルさんはすでに最初の障害物に入ったみたいです。
最初の障害物は網くぐりです。うまくくぐらないとからまってしまいます。
はぐれメタルさんは、その網の下をあっという間に潜り抜けました。
遅れて、ドラゴスライム君とスライムナイトさんが網に入りました。
ドラゴスライム君は普段飛んでいるので網の下を通るのに苦労しています。
スライムナイトさんは、ナイトの手足が網にからまってしまったみたいです。
そこからさらに遅れて、スラオくんとスラミちゃんがやってきました。
そこはやわらかいスライム、網をくぐるのは楽チンです。するんと抜けることが出来ました。
(PC)
4 faddy◆FqvO
その時、はぐれメタルさんは二つ目の障害物で苦労していました。
二つ目の障害物はアンパンです。宙吊り下げられているアンパンを食べなくてはいけません。
でも、はぐれメタルさんはちいさく、そして重いのでうまく食べることが出来ません。
さっきから頑張って跳ねようとしているのですが、後ちょっと届かないのです。
おや?スラオくんとスラミちゃん、もうやってきたみたいです。練習のおかげか速いですね。
でもやっぱり、スラオくんとスラミちゃんもちいさいのでうまく届きません。
あとちょっと、あとちょっと…ぴょんぴょんぴょんぴょん。でも、うまく届きません。
そこでスラオくん、いい事を思いつきました。
「スラミ、ぼくが肩車したら、パンをとって食べれるんじゃない?」
「あっ、なるほど!!スラオちゃん頭いい〜」
スラオ君考えましたね!二段になればあとちょっとが埋まりそうです!
でも、スラミちゃんが褒めてくれたおかげで、スラオくん真っ赤です。
「ああスラオちゃん照れてる〜!」
「いや違うよ!!!いいから早く乗ってよ!」スラオくんは体をぷるんぷるんさせながら言いました。
スラミちゃんはスラオくんの上に乗って跳ねました。今度はパンが取れました。
スラオくんも、スラミちゃんの上に乗って跳ねました。スラオ君もパンを食べることが出来ました。
「よ〜し、次へ進もう!」
後ろにはスライムナイトさんとドラゴスライムさんが見えています。
スラオくんとスラミちゃんは急いで跳ねていきました。
でも、スライムの肩車ってなんなんでしょうね…
二つ目の障害物はアンパンです。宙吊り下げられているアンパンを食べなくてはいけません。
でも、はぐれメタルさんはちいさく、そして重いのでうまく食べることが出来ません。
さっきから頑張って跳ねようとしているのですが、後ちょっと届かないのです。
おや?スラオくんとスラミちゃん、もうやってきたみたいです。練習のおかげか速いですね。
でもやっぱり、スラオくんとスラミちゃんもちいさいのでうまく届きません。
あとちょっと、あとちょっと…ぴょんぴょんぴょんぴょん。でも、うまく届きません。
そこでスラオくん、いい事を思いつきました。
「スラミ、ぼくが肩車したら、パンをとって食べれるんじゃない?」
「あっ、なるほど!!スラオちゃん頭いい〜」
スラオ君考えましたね!二段になればあとちょっとが埋まりそうです!
でも、スラミちゃんが褒めてくれたおかげで、スラオくん真っ赤です。
「ああスラオちゃん照れてる〜!」
「いや違うよ!!!いいから早く乗ってよ!」スラオくんは体をぷるんぷるんさせながら言いました。
スラミちゃんはスラオくんの上に乗って跳ねました。今度はパンが取れました。
スラオくんも、スラミちゃんの上に乗って跳ねました。スラオ君もパンを食べることが出来ました。
「よ〜し、次へ進もう!」
後ろにはスライムナイトさんとドラゴスライムさんが見えています。
スラオくんとスラミちゃんは急いで跳ねていきました。
でも、スライムの肩車ってなんなんでしょうね…
(PC)
5 faddy◆FqvO
モンスターたちも応援してくれます。
パペックマンはひたすら踊り、ブラックサンタは袋から何かを出して振っています。
花カワセミは空でチアリーディングをしていますし、呪いのボトルはみんなに酒を配っています。
スライムナイトさんはジャンプしなくても普通に手を伸ばしてパンを取ることができました。
人間のルールでは手は使っちゃいけないんですけどね。
ドラゴスライム君は余裕でパンをかすめとっていきました。
二匹とも、スライムに負けてたまるかと大急ぎで進んでいきました。
その頃、スラオくんとスラミちゃんは最後の障害物にたどり着きました。
最後の障害物は、借り物競争です。紙に書いてあるものをもってくればゲームクリアです。
借り物競争係のメルビンさんが、二匹に紙を渡してくれました。
スラオくんの紙には、「小さいのに大きいもの」、スラミちゃんの紙には「19185」と書いてあります。
スラオくんは悩んでいます。でも、スラミちゃんは何か分かったみたいですよ。
「わかった!いま、つれてきます!」スラミちゃんは応援席に跳ねていきました。
パペックマンはひたすら踊り、ブラックサンタは袋から何かを出して振っています。
花カワセミは空でチアリーディングをしていますし、呪いのボトルはみんなに酒を配っています。
スライムナイトさんはジャンプしなくても普通に手を伸ばしてパンを取ることができました。
人間のルールでは手は使っちゃいけないんですけどね。
ドラゴスライム君は余裕でパンをかすめとっていきました。
二匹とも、スライムに負けてたまるかと大急ぎで進んでいきました。
その頃、スラオくんとスラミちゃんは最後の障害物にたどり着きました。
最後の障害物は、借り物競争です。紙に書いてあるものをもってくればゲームクリアです。
借り物競争係のメルビンさんが、二匹に紙を渡してくれました。
スラオくんの紙には、「小さいのに大きいもの」、スラミちゃんの紙には「19185」と書いてあります。
スラオくんは悩んでいます。でも、スラミちゃんは何か分かったみたいですよ。
「わかった!いま、つれてきます!」スラミちゃんは応援席に跳ねていきました。
(PC)
6 faddy◆FqvO
はぐれメタルさんは、いつのまにかビリになってとってもあせっています。
「うきゃー!!!ギラ!!!」…はぐれメタルさん、やけになってはいけませんよ…
放たれた閃光は偶然にも糸にあたりました。糸は焼ききれました。
やりました!はぐれメタルさん、パンを食べることが出来ました!
はぐれメタルさんはものすごい速さで進んでいきました。
スライムナイトさん、ドラゴスライム君も紙を受け取りました。
スライムナイトさんの紙には「あたり!次に進んでいいよ!」と書いてありました!
スライムナイトさん大喜びです!
ドラゴスライム君の紙には…「アミットまんじゅう」と書いてありました。
アミットまんじゅうはフィッシュベルという村の名産品です。
でも、フィッシュベルはここからとても遠いのです。
ドラゴスライム君は、とっても暗い顔をして炎のため息をつきました。
その時、スラミちゃんが戻ってきました!スラミちゃんが連れているのは…人食い箱です!
「19185とは…ひとくいばこを数字に直したものだったんだわ!」
「正解でござる。先に行っていいでござるよ」
でも、スラミちゃんは動きません。その横ではぐれメタルさんが紙を受け取っています。
「スラオちゃんをおいていってゴールしても嬉しくないもん!スラオちゃん、一緒にゴールしよ?」
スラオくんはまたまた真っ赤になってしまいました。
はぐれメタルさんの紙には、「狼であった少年」と書いてありました。
はぐれメタルさんは一瞬で飛んでいきました。
「うきゃー!!!ギラ!!!」…はぐれメタルさん、やけになってはいけませんよ…
放たれた閃光は偶然にも糸にあたりました。糸は焼ききれました。
やりました!はぐれメタルさん、パンを食べることが出来ました!
はぐれメタルさんはものすごい速さで進んでいきました。
スライムナイトさん、ドラゴスライム君も紙を受け取りました。
スライムナイトさんの紙には「あたり!次に進んでいいよ!」と書いてありました!
スライムナイトさん大喜びです!
ドラゴスライム君の紙には…「アミットまんじゅう」と書いてありました。
アミットまんじゅうはフィッシュベルという村の名産品です。
でも、フィッシュベルはここからとても遠いのです。
ドラゴスライム君は、とっても暗い顔をして炎のため息をつきました。
その時、スラミちゃんが戻ってきました!スラミちゃんが連れているのは…人食い箱です!
「19185とは…ひとくいばこを数字に直したものだったんだわ!」
「正解でござる。先に行っていいでござるよ」
でも、スラミちゃんは動きません。その横ではぐれメタルさんが紙を受け取っています。
「スラオちゃんをおいていってゴールしても嬉しくないもん!スラオちゃん、一緒にゴールしよ?」
スラオくんはまたまた真っ赤になってしまいました。
はぐれメタルさんの紙には、「狼であった少年」と書いてありました。
はぐれメタルさんは一瞬で飛んでいきました。
(PC)
7 faddy◆FqvO
スライムナイトさんは、1位でゴールしました!アイラさんから、金メダルを受け取っています。
ドラゴスライム君は、キメラさんにルーラでフィッシュベルまでつれてってもらったみたいです。
スラオくんは一生懸命考えました。そして…。
「『小さいのに大きいもの』とは…ぼくのスラミへの思いだ!」
スラオくんは大声で言いました。
みんな静まり返りました。ブタあくまも、ナイトリッチも、きょとんとこっちを見ています。
「ぼくは小さいけれど…この気持ちは…誰にも負けないほど大きいんだ!
ぼくはスラミが好きだ!」
スラオくんはもう真っ赤です。
スラミちゃんもいつもより赤い気がします。
そして、ゆっくりとスラミちゃんがいいました。
「わたしも…スラオちゃんのことが…すき」
どこから拍手が沸き起こりました。アルスさんも微笑みながらうなずいています。
「スラオ殿の言葉、拙者も心を打たれたでござる。先へ進んでいいでござるよ」
というメルビンさんも少し目が潤んでいます。
2人は仲良く並んで、進んでいきました。
ドラゴスライム君は、キメラさんにルーラでフィッシュベルまでつれてってもらったみたいです。
スラオくんは一生懸命考えました。そして…。
「『小さいのに大きいもの』とは…ぼくのスラミへの思いだ!」
スラオくんは大声で言いました。
みんな静まり返りました。ブタあくまも、ナイトリッチも、きょとんとこっちを見ています。
「ぼくは小さいけれど…この気持ちは…誰にも負けないほど大きいんだ!
ぼくはスラミが好きだ!」
スラオくんはもう真っ赤です。
スラミちゃんもいつもより赤い気がします。
そして、ゆっくりとスラミちゃんがいいました。
「わたしも…スラオちゃんのことが…すき」
どこから拍手が沸き起こりました。アルスさんも微笑みながらうなずいています。
「スラオ殿の言葉、拙者も心を打たれたでござる。先へ進んでいいでござるよ」
というメルビンさんも少し目が潤んでいます。
2人は仲良く並んで、進んでいきました。
(PC)
8 faddy◆FqvO
夕日が輝く中、閉会式が行われました。
スライムレースは、くじであたりを引いたスライムナイトさんが1位、
あっという間にガボさんをつれてゴールしたはぐれメタルさんが2位、
二人並んでゴールしたスラオくんとスラミちゃんは3位、
フィッシュベルでアミットまんじゅうを買うのにてまどったドラゴスライム君が5位でした。
スラオくんとスラミちゃんは、2人で1つの銅色のメダルを貰いました。
2位にはなれませんでしたが、スラオくんはとても満足していました…
だって、真っ赤な色をした恋人が出来たんですもの…
完
あとがき…テーマは、のどかです。ひたすら童話のようになるように書きました。見ていると、なんだか癒される…そんな情景を描いたつもりです。 でも、長いですね…
スライムレースは、くじであたりを引いたスライムナイトさんが1位、
あっという間にガボさんをつれてゴールしたはぐれメタルさんが2位、
二人並んでゴールしたスラオくんとスラミちゃんは3位、
フィッシュベルでアミットまんじゅうを買うのにてまどったドラゴスライム君が5位でした。
スラオくんとスラミちゃんは、2人で1つの銅色のメダルを貰いました。
2位にはなれませんでしたが、スラオくんはとても満足していました…
だって、真っ赤な色をした恋人が出来たんですもの…
完
あとがき…テーマは、のどかです。ひたすら童話のようになるように書きました。見ていると、なんだか癒される…そんな情景を描いたつもりです。 でも、長いですね…
(PC)
9 faddy◆FqvO
『カシェルの思い』
ここはモンスターパーク。ルーメンから5分のところにある、魔物たちの楽園。
魔物たちは、ある者はのんびりと、ある者は充実した一日を送っていた。
太陽が西からさしている朝。ジェネラルダンテのカシェルは、流れ行く雲を見つめていた。なんという名前だったかは忘れたが、もくもくとした雲。ふと足元を見ると、草原が朝露にぬれて光っている。それは足に跳ね、冷たい感覚をカシェルに与えていた。
「お〜い!」
声が聞こえる。そちらをみると、鉄球魔人のタイニーがこちらに走ってくるのが見えた。
「おい、探したぞ!もうバトルトーナメントの参加者はスタイバイしろだとさ」
タイニーはカシェルのところまで来るといった。遠くから走ってきたのか汗をかいていたが、息を切らせていないところは立派だ。
「ああもうそんな時間か…。分かった。いま行く」
タイニーにそう返すと、カシェルは走り出した。後をみると、タイニーが追いかけてきている。カシェルは走りながら、今は亡き友のことを思い出していた。
ここはモンスターパーク。ルーメンから5分のところにある、魔物たちの楽園。
魔物たちは、ある者はのんびりと、ある者は充実した一日を送っていた。
太陽が西からさしている朝。ジェネラルダンテのカシェルは、流れ行く雲を見つめていた。なんという名前だったかは忘れたが、もくもくとした雲。ふと足元を見ると、草原が朝露にぬれて光っている。それは足に跳ね、冷たい感覚をカシェルに与えていた。
「お〜い!」
声が聞こえる。そちらをみると、鉄球魔人のタイニーがこちらに走ってくるのが見えた。
「おい、探したぞ!もうバトルトーナメントの参加者はスタイバイしろだとさ」
タイニーはカシェルのところまで来るといった。遠くから走ってきたのか汗をかいていたが、息を切らせていないところは立派だ。
「ああもうそんな時間か…。分かった。いま行く」
タイニーにそう返すと、カシェルは走り出した。後をみると、タイニーが追いかけてきている。カシェルは走りながら、今は亡き友のことを思い出していた。
(PC)
10 faddy◆FqvO
テリーは、カシェルが唯一親友といえる相手だった。もちろんタイニーや、他の魔物達が友人ではないという意味ではない。しかし、テリーには同族というだけではないなにか特別な感情を抱いていた。
生まれたときからカシェルは一人ぼっちだった。母親や父親の記憶はない。カシェルは、誰にも頼らずに一人で暮らしてきた。そんな時、テリーが現れた。
「一緒に暮らさないか?」もともと孤独を好むジェネラルダンテにはらしくない言葉。しかし、カシェルはその「らしくなさ」に興味を持った。カシェルとテリーは、二人で生活するようになった。寒い日は、温かいスープを二人でつくり、火を囲んで語り合い、身体を寄せ合って寝た。その生活の中で、カシェルはテリーに心からの信頼を置くようになった。テリーも、カシェルを慕っていた。二人は、最高の友となった。しかし、そのテリーももうこの世にはいない。
生まれたときからカシェルは一人ぼっちだった。母親や父親の記憶はない。カシェルは、誰にも頼らずに一人で暮らしてきた。そんな時、テリーが現れた。
「一緒に暮らさないか?」もともと孤独を好むジェネラルダンテにはらしくない言葉。しかし、カシェルはその「らしくなさ」に興味を持った。カシェルとテリーは、二人で生活するようになった。寒い日は、温かいスープを二人でつくり、火を囲んで語り合い、身体を寄せ合って寝た。その生活の中で、カシェルはテリーに心からの信頼を置くようになった。テリーも、カシェルを慕っていた。二人は、最高の友となった。しかし、そのテリーももうこの世にはいない。
(PC)
11 faddy◆FqvO
会場に着くと、会場の魔物たちが拍手をしているのが見えた。その視線をたどると、ドラゴスライムがゴールゲートをくぐったところであった。名前は…ドランといったか。どうやら最下位だったらしく、会場にあったパンや網の片づけが始まっていた。
昔、ドランは、カシェルに弟子入りを志願してきたことがあった。
「俺…強くなりたいんです!どうか、弟子にしてください!」
近頃はなかなか見ない燃えた目をしていた。半端な気持ちではないということがその目から読み取れた。しかし、カシェルには弟子を取る気はなかった。自分に教えられることはないと思っていたからだ。それは、自分は強いという驕りの気持ちをもちたくないということでもあった。
「お前を弟子にすることは出来ない。帰ってくれ」
その一言で十分だった。ドランは、一瞬でカシェルの真意を汲み取り去っていった。その後、タイニーの弟子になったという話をタイニー自身から聞いた。
「あいつはすごい奴だ。毎日5時間、ひたすら稽古をしても弱音ひとつはかねえ。俺の若いころにはそんな根性はなかったな…」
ドランがへとへとになってタイニーにかかっていったのをカシェルはよく見かけた。それだけではなく、ドランが毎日タイニーに内緒で自主練習をしていたのをも知っていた。そのひたむきな姿を見て、カシェルはドランに好感を抱いていた。
「まあ、ビリになったのは悔しいだろうが、くじ引きの結果だから仕方ないだろう。障害物競争で強さが競われるわけではないからな」
「まったくだ」
ガッハッハと二人は笑いあった。
昔、ドランは、カシェルに弟子入りを志願してきたことがあった。
「俺…強くなりたいんです!どうか、弟子にしてください!」
近頃はなかなか見ない燃えた目をしていた。半端な気持ちではないということがその目から読み取れた。しかし、カシェルには弟子を取る気はなかった。自分に教えられることはないと思っていたからだ。それは、自分は強いという驕りの気持ちをもちたくないということでもあった。
「お前を弟子にすることは出来ない。帰ってくれ」
その一言で十分だった。ドランは、一瞬でカシェルの真意を汲み取り去っていった。その後、タイニーの弟子になったという話をタイニー自身から聞いた。
「あいつはすごい奴だ。毎日5時間、ひたすら稽古をしても弱音ひとつはかねえ。俺の若いころにはそんな根性はなかったな…」
ドランがへとへとになってタイニーにかかっていったのをカシェルはよく見かけた。それだけではなく、ドランが毎日タイニーに内緒で自主練習をしていたのをも知っていた。そのひたむきな姿を見て、カシェルはドランに好感を抱いていた。
「まあ、ビリになったのは悔しいだろうが、くじ引きの結果だから仕方ないだろう。障害物競争で強さが競われるわけではないからな」
「まったくだ」
ガッハッハと二人は笑いあった。
(PC)
12 faddy◆FqvO
「―では、私はもう行かせて貰う」
「おう。頑張ってこいよ」
オーガーの言葉を背に受け、控え室に向かった。太陽も先ほどより高い地点にある。草原も先ほどより乾いていた。
バトルトーナメントの開催の知らせを聞いたとき、カシェルは真っ先に出場の申し込みをした。これは、いわばチャンスだった。亡き友との約束を仮にでも果たすチャンス。この戦いで、負けるわけにはいかない。
「簡単に負けたら、許さないからなっ!」
テリーの声が聞こえた気がした。
バトルトーナメントは、三二匹のトーナメント制である。くじ引きで戦う相手を決め、コロシアムに入場する。そしてお互いの力・技・呪文の全てを注ぎ、相手を討ち果たすのだ。相手が参ったというまで、もしくは立てなくなるまで戦いは続く。そして、全ての戦いに勝利した者が優勝者となる。
控え室には、多くの魔物がくつろいでいた。剣を研ぐ者、ひたすら眠る者、談笑する者…カシェルはその輪に加わらず、隅に向かおうとした。
「ジェネラルダンテさんもバトルトーナメントに出場するの?」
唐突にベビーニュートに話しかけられた。
「無論。私は、この大会で優勝するつもりだ」
それだけ言うとベビーニュートから離れていく。「大運動会」で本気になるのも大人気ないとカシェルは自嘲した。しかし、それに本気になる自分が少々可愛くもあった。
「おう。頑張ってこいよ」
オーガーの言葉を背に受け、控え室に向かった。太陽も先ほどより高い地点にある。草原も先ほどより乾いていた。
バトルトーナメントの開催の知らせを聞いたとき、カシェルは真っ先に出場の申し込みをした。これは、いわばチャンスだった。亡き友との約束を仮にでも果たすチャンス。この戦いで、負けるわけにはいかない。
「簡単に負けたら、許さないからなっ!」
テリーの声が聞こえた気がした。
バトルトーナメントは、三二匹のトーナメント制である。くじ引きで戦う相手を決め、コロシアムに入場する。そしてお互いの力・技・呪文の全てを注ぎ、相手を討ち果たすのだ。相手が参ったというまで、もしくは立てなくなるまで戦いは続く。そして、全ての戦いに勝利した者が優勝者となる。
控え室には、多くの魔物がくつろいでいた。剣を研ぐ者、ひたすら眠る者、談笑する者…カシェルはその輪に加わらず、隅に向かおうとした。
「ジェネラルダンテさんもバトルトーナメントに出場するの?」
唐突にベビーニュートに話しかけられた。
「無論。私は、この大会で優勝するつもりだ」
それだけ言うとベビーニュートから離れていく。「大運動会」で本気になるのも大人気ないとカシェルは自嘲した。しかし、それに本気になる自分が少々可愛くもあった。
(PC)
13 faddy◆FqvO
その日も、テリーとカシェルは一緒に歩いていた。
「鳥ってなにを考えているんだろうな。木の実を割ることばっかりか?」
「なにバカなことを言っているんだか」
「そんなこというなよ〜」
二人で笑いあったとき、彼らは現れた。
緑の頭巾の少年。野生的な雰囲気を漂わせた少年。鎖帷子をまとった老人。赤い衣装の踊り子。テリーとカシェルは、彼らに戦いを挑み、そして敗れた。
ふと意識が戻った。隣でテリーが倒れている。まだ息があるかわからない。しかしカシェルは、目の前の緑の頭巾の少年に心惹かれていた。
「貴方の心に惚れました…」
ゆっくりと立ち上がりながら言った。口の端から血がこぼれるがそのようなことは気にしていられない。
「貴方の柔らかい心を感じました。貴方が私を殺したいというなら逆らいません。しかしもしよければ、私を使役していただけないでしょうか」
その後、カシェルは、少年・アルスの言葉に従いここにやってきた。ここは、魔物が平和に暮らせる唯一の場所。カシェルは、このようなところを紹介してくれたアルスにとても感謝している。魔王を裏切ったことには後悔していない。人間の心を知った今、人間を滅ぼす気にはなれない。しかし、テリーを裏切ったことになるのか今でも考える。
(私は、テリーとともに逝くべきだったのだろうか)
テリーがあのあと息を吹き返したのかどうか分からない。しかしカシェルは、ここが自分のいた時代から遠い未来であることを知っていた。テリーは、既に死んだのである。テリーは死に、自分は生きている。
(お前のことは忘れないからな。許してくれ)
カシェルは、心の中でテリーに許しを請うた。そして、この戦いで負けてはならないという決心を固めた。それは、テリーとの約束。
「鳥ってなにを考えているんだろうな。木の実を割ることばっかりか?」
「なにバカなことを言っているんだか」
「そんなこというなよ〜」
二人で笑いあったとき、彼らは現れた。
緑の頭巾の少年。野生的な雰囲気を漂わせた少年。鎖帷子をまとった老人。赤い衣装の踊り子。テリーとカシェルは、彼らに戦いを挑み、そして敗れた。
ふと意識が戻った。隣でテリーが倒れている。まだ息があるかわからない。しかしカシェルは、目の前の緑の頭巾の少年に心惹かれていた。
「貴方の心に惚れました…」
ゆっくりと立ち上がりながら言った。口の端から血がこぼれるがそのようなことは気にしていられない。
「貴方の柔らかい心を感じました。貴方が私を殺したいというなら逆らいません。しかしもしよければ、私を使役していただけないでしょうか」
その後、カシェルは、少年・アルスの言葉に従いここにやってきた。ここは、魔物が平和に暮らせる唯一の場所。カシェルは、このようなところを紹介してくれたアルスにとても感謝している。魔王を裏切ったことには後悔していない。人間の心を知った今、人間を滅ぼす気にはなれない。しかし、テリーを裏切ったことになるのか今でも考える。
(私は、テリーとともに逝くべきだったのだろうか)
テリーがあのあと息を吹き返したのかどうか分からない。しかしカシェルは、ここが自分のいた時代から遠い未来であることを知っていた。テリーは、既に死んだのである。テリーは死に、自分は生きている。
(お前のことは忘れないからな。許してくれ)
カシェルは、心の中でテリーに許しを請うた。そして、この戦いで負けてはならないという決心を固めた。それは、テリーとの約束。
(PC)
14 faddy◆FqvO
一回戦目の相手はダンビラムーチョだった。危なげなく勝てたが、カシェルはほっと息をつく。このようなふざけた容貌のモンスターに負けてはかなわない。二回戦目はメタルライダーとの試合だった。剣の腕はなかなかのものだったが、いかんせん一撃の重さが違った。メタルライダーが上段から思い切り剣を振り落としたとき、カシェルはメタルライダーの腕の中にもぐりこみ剣を弾き飛ばした。カシェルがメタルライダーの頭に剣をかざしたところで、メタルライダーは負けを認めた。その勢いで勝ち進み、カシェルは決勝戦まで勝ち進んだ。そして、テリーとの思い出を回想した。
(PC)
15 faddy◆FqvO
「ま、参った!」
倒れているのはテリーだった。その視線の先には、既に剣を鞘に納めたカシェル。
「ひゃあ〜負けた!適わないな。やっぱりお前強いな」
「まだ貴様に負けるほど堕ちぶれてはおらん」
そういってにやりと笑う。
テリーは立ち上がり、カシェルの隣に並んだ。
「おいおい言ってくれるじゃんか」
テリーもにやりと笑う。
カシェルは草原に腰を下ろした。テリーも一緒に座る。草は丈が短く、地面に張り付くように生えていた。その慣れた座り心地は、二人の心を静める。
空を見上げてみた。雲に隠れた月が申し訳程度に光っている。ここは、封印された土地。太陽が輝くことはないため、草木は細り、人間達には、活気が失われていく。
「―なぜ魔王様は何故人間共を滅ぼそうとするのだろうな」
「俺はそんなこと興味ないな」
素っ気なく一言で返されカシェルはずっこけそうになる。
「!?貴様、折角私が真面目な話をしようとしているところを!」
「ああ悪いな。お前のこと考えててさ」
テリーは足を組みなおした。
「でも、正直いって興味がない。人間にも興味ない。こうしてお前と戦っていると思うんだよ。強さを磨くって楽しいってさ。自分の精神がより練り上げられてくって感じ。なんか毎日が充実しているんだよな」
「…お前らしくない言葉だな」
「人間で言う騎士道って奴かな」
テリーからそんな言葉が聴けるとは思わなかった。相変わらず何を考えているのか分からない。
倒れているのはテリーだった。その視線の先には、既に剣を鞘に納めたカシェル。
「ひゃあ〜負けた!適わないな。やっぱりお前強いな」
「まだ貴様に負けるほど堕ちぶれてはおらん」
そういってにやりと笑う。
テリーは立ち上がり、カシェルの隣に並んだ。
「おいおい言ってくれるじゃんか」
テリーもにやりと笑う。
カシェルは草原に腰を下ろした。テリーも一緒に座る。草は丈が短く、地面に張り付くように生えていた。その慣れた座り心地は、二人の心を静める。
空を見上げてみた。雲に隠れた月が申し訳程度に光っている。ここは、封印された土地。太陽が輝くことはないため、草木は細り、人間達には、活気が失われていく。
「―なぜ魔王様は何故人間共を滅ぼそうとするのだろうな」
「俺はそんなこと興味ないな」
素っ気なく一言で返されカシェルはずっこけそうになる。
「!?貴様、折角私が真面目な話をしようとしているところを!」
「ああ悪いな。お前のこと考えててさ」
テリーは足を組みなおした。
「でも、正直いって興味がない。人間にも興味ない。こうしてお前と戦っていると思うんだよ。強さを磨くって楽しいってさ。自分の精神がより練り上げられてくって感じ。なんか毎日が充実しているんだよな」
「…お前らしくない言葉だな」
「人間で言う騎士道って奴かな」
テリーからそんな言葉が聴けるとは思わなかった。相変わらず何を考えているのか分からない。
(PC)
16 faddy◆FqvO
「まあ、魔王に文句があるなら、お前が魔王になればいいんじゃないか?」
「なにバカなことを」
「強さを磨いていっての最高の目標は魔王だろ。全ての魔物を率いる王者」
テリーは自分の言った言葉に酔っているようだった。
「お前が魔王になったら、俺は副将軍くらいにしてくれよ…」
「…貴様には任せたくないな。その時は、私が全ての指揮を執ろう」
「おいおいやる気だな。よ、次期魔王!」
テリーは調子がいい。そして、一人でどんどん盛り上がっていく。しかし、カシェルはなんとなくそのノリに合わせて見たい気分だった。
「よし分かった。私は魔王になってやる。魔物達を統べる最強の王になってやろう!」
「副将軍のこと、忘れるなよ。約束だぞ!」
「どうしてもというならしてやらんこともない」
二人は笑いあった。
月も既に沈みかけていたが、太陽は昇らない。その後二人は酒を飲み、そして眠った。そして次の日、カシェルとテリーは別れることになったのだ。
この時の約束に今でもカシェルは縛られている。魔王なんてテリーもカシェルも本気ではなかった。しかし、これはテリーとカシェルの最後の約束だった。その約束を、このトーナメントで優勝することで仮にでも果そうとしている。魔物の中で最強という称号が欲しかった、それだけである。実際は、このトーナメントで優勝しても最強とはいえないだろう。しかし、この大会で優勝出来ないようだととても魔王とは呼べない。カシェルは、優勝するという決心をさらに強めた。
「なにバカなことを」
「強さを磨いていっての最高の目標は魔王だろ。全ての魔物を率いる王者」
テリーは自分の言った言葉に酔っているようだった。
「お前が魔王になったら、俺は副将軍くらいにしてくれよ…」
「…貴様には任せたくないな。その時は、私が全ての指揮を執ろう」
「おいおいやる気だな。よ、次期魔王!」
テリーは調子がいい。そして、一人でどんどん盛り上がっていく。しかし、カシェルはなんとなくそのノリに合わせて見たい気分だった。
「よし分かった。私は魔王になってやる。魔物達を統べる最強の王になってやろう!」
「副将軍のこと、忘れるなよ。約束だぞ!」
「どうしてもというならしてやらんこともない」
二人は笑いあった。
月も既に沈みかけていたが、太陽は昇らない。その後二人は酒を飲み、そして眠った。そして次の日、カシェルとテリーは別れることになったのだ。
この時の約束に今でもカシェルは縛られている。魔王なんてテリーもカシェルも本気ではなかった。しかし、これはテリーとカシェルの最後の約束だった。その約束を、このトーナメントで優勝することで仮にでも果そうとしている。魔物の中で最強という称号が欲しかった、それだけである。実際は、このトーナメントで優勝しても最強とはいえないだろう。しかし、この大会で優勝出来ないようだととても魔王とは呼べない。カシェルは、優勝するという決心をさらに強めた。
(PC)
17 faddy◆FqvO
決勝戦は大運動会の最後の種目として行われた。
「決勝戦!両者、前へ」
メルビンの号令とともに会場に入る。周りから大きな拍手が沸き起こる。観客席を見回すと、魔界ファイターが賭けを仕切っているのが見えた。
”ジェネラルダンテ、倍率7.5倍 ナイトキング2倍”
と書いてある看板が見えた。 さらに見直すと、死神貴族が怪しい笑みを浮かべていた。眼があるわけではないのに、なにか企んでいるかのような怪しい視線を感じる。ほおを歪め、全てを見下すように見ている。そんな感じがした。
目の前に立っているのはナイトキングだった。身体が腐敗しきって骨と化した魔物。高名な魔法使いが、更なる魔力を得るために魔族に魂を売った姿ということを、昔風の噂で聞いた。
「こら負けんなよ!」タイニーの声が響いた。「叩きのめしてやれー!」「ナイトリッチ頑張れ!」「ソロモン!ソフィアはお前をいつでも見ているぞ」「ゾンビの王は負けないんだー!」決勝戦だからかとてもわきだっている。
「試合、始め!」
メルビンの声が会場に響く。
身体ひとつの間合いでお互いの動きを牽制する。相手の呼吸、視線を観察し攻勢に出る機会を図っている。
先に動いたのはナイトキングだった。
「わしは…負けるわけにはいかない!」つぶやく様な声ながらしっかりと聞こえてきた。右手の剣でカシェルの肺をついてくる。剣の鎬で左にうけながしながら、右に飛び避けた。
(しまった)突きは単なる牽制だった。体重を全く込めていない。突いた剣を返して地面に切り下げ、カシェルの首を狙ってくる。殺す気で攻めているのだ。咄嗟に落ちてくる腕に剣を刺した。ナイトキングの剣の動きが止まった。
ナイトキングが一瞬不気味な笑みを浮かべた。剣を腕に刺したまま左手で抱え込む。
(!?)抜けない。ものすごい力だ。骨であるがゆえに剣と身体の接触面積は小さい。しかしナイトキングはその小さな部分で剣を封じているのだ。
ナイトキングは剣を持ち替えた。剣がカシェルの胴を薙ごうとする。カシェルは手を離し後ろに跳ねた。カシェルは剣を失った。
「決勝戦!両者、前へ」
メルビンの号令とともに会場に入る。周りから大きな拍手が沸き起こる。観客席を見回すと、魔界ファイターが賭けを仕切っているのが見えた。
”ジェネラルダンテ、倍率7.5倍 ナイトキング2倍”
と書いてある看板が見えた。 さらに見直すと、死神貴族が怪しい笑みを浮かべていた。眼があるわけではないのに、なにか企んでいるかのような怪しい視線を感じる。ほおを歪め、全てを見下すように見ている。そんな感じがした。
目の前に立っているのはナイトキングだった。身体が腐敗しきって骨と化した魔物。高名な魔法使いが、更なる魔力を得るために魔族に魂を売った姿ということを、昔風の噂で聞いた。
「こら負けんなよ!」タイニーの声が響いた。「叩きのめしてやれー!」「ナイトリッチ頑張れ!」「ソロモン!ソフィアはお前をいつでも見ているぞ」「ゾンビの王は負けないんだー!」決勝戦だからかとてもわきだっている。
「試合、始め!」
メルビンの声が会場に響く。
身体ひとつの間合いでお互いの動きを牽制する。相手の呼吸、視線を観察し攻勢に出る機会を図っている。
先に動いたのはナイトキングだった。
「わしは…負けるわけにはいかない!」つぶやく様な声ながらしっかりと聞こえてきた。右手の剣でカシェルの肺をついてくる。剣の鎬で左にうけながしながら、右に飛び避けた。
(しまった)突きは単なる牽制だった。体重を全く込めていない。突いた剣を返して地面に切り下げ、カシェルの首を狙ってくる。殺す気で攻めているのだ。咄嗟に落ちてくる腕に剣を刺した。ナイトキングの剣の動きが止まった。
ナイトキングが一瞬不気味な笑みを浮かべた。剣を腕に刺したまま左手で抱え込む。
(!?)抜けない。ものすごい力だ。骨であるがゆえに剣と身体の接触面積は小さい。しかしナイトキングはその小さな部分で剣を封じているのだ。
ナイトキングは剣を持ち替えた。剣がカシェルの胴を薙ごうとする。カシェルは手を離し後ろに跳ねた。カシェルは剣を失った。
(PC)
18 faddy◆FqvO
ナイトキングは剣を腕から抜いた。そして、カシェルに剣を投げた。足元に剣が転がる。
「―何故剣を返す」
「剣のない相手に勝ったとしてもソフィアに顔向けが出来んでの」
「敵に情けをかけてもらうのは情けないものだな」
「嫌だったかな?」
「貰った恩は受けておく。感謝する」
足元の剣を拾い、一度鞘に収める。
「言っておくが、わしはお主を殺す気でおる」
「それは分かっている」
「運動会だから可愛い戦いで済ませようとは思わないのじゃ。わしには勝たなければいけない理由がある。そしてきっと、お主にも何かしらの思いがあるのじゃろう。真剣な勝負、命を懸けて戦いたい」
「言うとおりだ。承知した。この命をかけて、貴様を討ち果たしてくれよう」
「では…再び戦闘開始じゃ」
そういうとナイトキングは一気に間合いを詰めてきた。剣を斜めに切り付けてくる。カシェルは身を屈め、足元を突いた。
ナイトキングは、カシェルの剣の動きを見抜いたのだろう、剣があたる寸前で飛び上がった。空中から左手の盾を投げる。
巨体が宙を舞うとはカシェルの予想外だった。飛んでくる盾に一瞬カシェルは眼を奪われた。盾は、カシェルの左足にぶち当たった。痛みに一瞬ナイトキングから気がそれた。
ナイトキングは空中で剣を両手逆手持ちをしていた。全体重を剣に込め、カシェルの脳天を砕こうとする。
カシェルは我に返り、身体をそらしながら剣で凌いだ。全体重がかかっているため、とても重い。それを左手一本で凌ぎきれるわけもなく―
「―何故剣を返す」
「剣のない相手に勝ったとしてもソフィアに顔向けが出来んでの」
「敵に情けをかけてもらうのは情けないものだな」
「嫌だったかな?」
「貰った恩は受けておく。感謝する」
足元の剣を拾い、一度鞘に収める。
「言っておくが、わしはお主を殺す気でおる」
「それは分かっている」
「運動会だから可愛い戦いで済ませようとは思わないのじゃ。わしには勝たなければいけない理由がある。そしてきっと、お主にも何かしらの思いがあるのじゃろう。真剣な勝負、命を懸けて戦いたい」
「言うとおりだ。承知した。この命をかけて、貴様を討ち果たしてくれよう」
「では…再び戦闘開始じゃ」
そういうとナイトキングは一気に間合いを詰めてきた。剣を斜めに切り付けてくる。カシェルは身を屈め、足元を突いた。
ナイトキングは、カシェルの剣の動きを見抜いたのだろう、剣があたる寸前で飛び上がった。空中から左手の盾を投げる。
巨体が宙を舞うとはカシェルの予想外だった。飛んでくる盾に一瞬カシェルは眼を奪われた。盾は、カシェルの左足にぶち当たった。痛みに一瞬ナイトキングから気がそれた。
ナイトキングは空中で剣を両手逆手持ちをしていた。全体重を剣に込め、カシェルの脳天を砕こうとする。
カシェルは我に返り、身体をそらしながら剣で凌いだ。全体重がかかっているため、とても重い。それを左手一本で凌ぎきれるわけもなく―
(PC)
19 faddy◆FqvO
右肩が軽くなった。血が噴き出す。意識を失いそうなほどの痛み。カシェルは左に倒れこんだ。
「右腕が飛んだようじゃの」
ナイトキングの言葉で初めて右腕がなくなっていることに気付いた。右を見ると、血だらけの肉塊が転がっている。それを見ていっそう痛みが強くなった。頭が割れるように痛い。
「―――
ナイトキングが何か言っている。メルビンが動いている気がする。しかし、カシェルには聞くことが出来なかった。カシェルは意識を失いかけた。
「なんであきらめるんだよ」テリーの声が聞こえた。
「今は人間達の世界で幸せにすごしてるんだろ?その幸せを捨てんなよ。まだ負けたわけじゃない」いつもの声で語りかけてくる。
「まだ左手があるじゃないか。お前は魔王になるんだろ?例え腕を失っても顔色一つ変えないのが魔王だろ」
(テリー…)唯一の親友の声。それはカシェルの頭の中に直接響いてくる。
「ほら立てよ。諦めるにはまだ早い。立ち上がれ、カシェル!!」
カシェルは目を開いた。
「私は…負けない!」
血はまだ流れていたが、ゆっくりと立ち上がる。
「驚いたの。まだ立つとは。止めを刺しておけばよかったわい」
カシェルは剣を構えた。腕は減ったものの、逆に軽くなって戦いやすい。
(テリー…お前の気持ち、しかと受け取った。力を、貸してくれ……!)
「おりゃあ!」
気合の声を出す。そのときには既に腕の痛みは消えていた。
今度はカシェルが先に動いた。まっすぐと駆け、胴を貫こうとする。
「ぬぅっ!」
ナイトキングが驚きの声を上げる。先ほどとは段違いのスピードだ。咄嗟に盾を掲げたが、剣は盾を砕いた。
ナイトキングは動けないままだ。剣を虚ろな目で見ている。カシェルは、身体ごとぶつかりナイトキングに剣を突き刺した。
「右腕が飛んだようじゃの」
ナイトキングの言葉で初めて右腕がなくなっていることに気付いた。右を見ると、血だらけの肉塊が転がっている。それを見ていっそう痛みが強くなった。頭が割れるように痛い。
「―――
ナイトキングが何か言っている。メルビンが動いている気がする。しかし、カシェルには聞くことが出来なかった。カシェルは意識を失いかけた。
「なんであきらめるんだよ」テリーの声が聞こえた。
「今は人間達の世界で幸せにすごしてるんだろ?その幸せを捨てんなよ。まだ負けたわけじゃない」いつもの声で語りかけてくる。
「まだ左手があるじゃないか。お前は魔王になるんだろ?例え腕を失っても顔色一つ変えないのが魔王だろ」
(テリー…)唯一の親友の声。それはカシェルの頭の中に直接響いてくる。
「ほら立てよ。諦めるにはまだ早い。立ち上がれ、カシェル!!」
カシェルは目を開いた。
「私は…負けない!」
血はまだ流れていたが、ゆっくりと立ち上がる。
「驚いたの。まだ立つとは。止めを刺しておけばよかったわい」
カシェルは剣を構えた。腕は減ったものの、逆に軽くなって戦いやすい。
(テリー…お前の気持ち、しかと受け取った。力を、貸してくれ……!)
「おりゃあ!」
気合の声を出す。そのときには既に腕の痛みは消えていた。
今度はカシェルが先に動いた。まっすぐと駆け、胴を貫こうとする。
「ぬぅっ!」
ナイトキングが驚きの声を上げる。先ほどとは段違いのスピードだ。咄嗟に盾を掲げたが、剣は盾を砕いた。
ナイトキングは動けないままだ。剣を虚ろな目で見ている。カシェルは、身体ごとぶつかりナイトキングに剣を突き刺した。
(PC)
20 faddy◆FqvO
ナイトキングはまだ立っていた。しかし、その腹には深々と剣が突き刺さっている。
「わしは…死ぬのか…ソフィア…」
ナイトキングから生命感が失われていった。弱弱しい声。それはまさしく寿命が尽きる老人の姿だった。
「お前は最高の相手だった。最後に、名を聞こう」
「わしは…ソロモン。妻を裏切った最低の男よ…」
そこまでいうと、ナイトキングは崩れ落ちた。魂を失った身体は風化し風に溶けていく。
「それまで!勝者、ジェネラルダンテ!」
メルビンの声が聞こえた瞬間、カシェルは気を失った。
「わしは…死ぬのか…ソフィア…」
ナイトキングから生命感が失われていった。弱弱しい声。それはまさしく寿命が尽きる老人の姿だった。
「お前は最高の相手だった。最後に、名を聞こう」
「わしは…ソロモン。妻を裏切った最低の男よ…」
そこまでいうと、ナイトキングは崩れ落ちた。魂を失った身体は風化し風に溶けていく。
「それまで!勝者、ジェネラルダンテ!」
メルビンの声が聞こえた瞬間、カシェルは気を失った。
(PC)
21 faddy◆FqvO
既に日は沈もうとしていた。草原も赤色に見える。
興奮冷めやらない魔物たちが集まる中、閉会式が行われた。アルスが各種目の表彰をしていく。最後に、バトルトーナメントの表彰。
「優勝、ジェネラルダンテ!」
アルスが言った。周りから大歓声が聞こえる。カシェルは、アイラから黄金に輝くメダルを受け取った。
「カシェル、感動したぞ!お前はやはり最高の戦士だ!」
タイニーの声だった。それ以外にも勝者カシェルをたたえる声が響いてくる。
「ナイトキングとジェネラルダンテの戦いはとても素晴らしかった。僕も涙が溢れてきたよ」そういうアルスの目には本当に涙が浮かんでいた。静まりかえった会場からもすすり声が聞こえてくる。
「みんな、腕を失ってなお戦ったジェネラルダンテのカシェルと、戦いで命を散らしたナイトキングのソロモンに、もう一度大きな拍手をしよう!」アルスの声で、会場全体が沸いた。誰もが拍手を惜しもうとしない。キングタートル、モシャスナイト、ギガントドラゴン…
(テリー…今日は助かった。勝てたのはお前のおかげだ。私は、お前のことをずっと忘れないからな)
カシェルは心の中で手を合わせた。そして、第二の親友と呼ぶべきソロモンのことを考えていた。
興奮冷めやらない魔物たちが集まる中、閉会式が行われた。アルスが各種目の表彰をしていく。最後に、バトルトーナメントの表彰。
「優勝、ジェネラルダンテ!」
アルスが言った。周りから大歓声が聞こえる。カシェルは、アイラから黄金に輝くメダルを受け取った。
「カシェル、感動したぞ!お前はやはり最高の戦士だ!」
タイニーの声だった。それ以外にも勝者カシェルをたたえる声が響いてくる。
「ナイトキングとジェネラルダンテの戦いはとても素晴らしかった。僕も涙が溢れてきたよ」そういうアルスの目には本当に涙が浮かんでいた。静まりかえった会場からもすすり声が聞こえてくる。
「みんな、腕を失ってなお戦ったジェネラルダンテのカシェルと、戦いで命を散らしたナイトキングのソロモンに、もう一度大きな拍手をしよう!」アルスの声で、会場全体が沸いた。誰もが拍手を惜しもうとしない。キングタートル、モシャスナイト、ギガントドラゴン…
(テリー…今日は助かった。勝てたのはお前のおかげだ。私は、お前のことをずっと忘れないからな)
カシェルは心の中で手を合わせた。そして、第二の親友と呼ぶべきソロモンのことを考えていた。
(PC)