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『星のダンス大会!』

 はるかなる昔。闇のドラゴンに襲われて、ヘルバオムに襲われて、虫の大群に襲われるという、住むのになんか不安になるランキングで言えばぶっちぎりで一位になれそうな町、ルーメン。そこからちょっと南にいってみると、モンスターが、おだやかに、華麗に、あるいははちゃめちゃに暮らしてるのが判ると思う。
 そうそこは、モンスターパーク!モンスターの楽園である!!
 でも、そこに住むモンスターはなんだかみんな個性が強い…
(PC)
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 その個性の強いモンスターのなかでは貴重な、常識的なモンスターの1匹が、あたし(ローズバトラー)。で、今は…
ぶーん。ぶーん、ぶーん。
 あたしの周りでポイズンバードが飛んでいた。
ぶーん、ぶーん、ぶーーーん。
あたしの頭にポイズンバードがとまった。
こそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこ
「うざったいんじゃああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「いやあもう春だし〜そろそろ産卵しようと思って〜」
「あたしに産卵すなあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
勝手に産卵するなんて無礼千万!!!ちょっと絞めてくれる!!!!!
あたしはツタを振り回し、ポイズンバードを捕まえようとする。しかしポイズンバードは、ひらりひらりとかわす。ああまどろっこしい!!!!
「こらあ黙って捕まれ!!!」
あたしはむきになり、ツタをあたりにむちゃくちゃに振り回す。後ろか!?そっちか!!??
しばらくツタを振り回して、一息ついて辺りを見たら…
あやつは一歩はなれたところであたしを冷ややかに見ていた。
「なんだか怒ってるみたいだし、やめとくよ〜。じゃあね〜」
あやつは、茫然とするあたしを尻目になんか向こうのほうへ行ってしまった。
 …なんなのあいつは。汗かいちゃったじゃない。まあ、準備体操くらいにはなったかな。じゃあ、早速ステップの復習から始めようかな…
(PC)
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 今日は、モンスターパークの大運動会が開催される日であった。野球大会や、バトルトーナメントの競技によって、出場者がお互いの運動能力を競い合うのだ。その競技のひとつに、ダンスコンテストがある。
 ダンスコンテストは、ジャンルの別なく全員が同じ種目で踊る。まあこの狭いモンスターパークだし、競技人口が少ないから仕方ないだろう。そうして、審査委員長アイラさんと数人の審査員による審査委員会が点数をつけて、点数が多いものから二回戦・三回戦と勝ち進んでいく。
 あたしは、このダンスコンテストに出場するのだ。もちろん、狙うは優勝のみ!そのために、あたしは今まで趣味として続けてきたダンスの知識や技術を全て注ぎこんだダンスを開発した。でも、いろいろと難しいダンスになってしまったから、いろいろと練習しなきゃいけなかった。
 暑い盛りの火山で練習をしたこともあった。冷える墓場の館の底で練習をしたこともあった。 …今考えてみると…
「この狭いモンスターパークの中に、なんでそんなにいろいろな地形が同時に存在できるのよ!火山のすぐそば海底公園なんておかしいでしょ!」
 考えてみると、謎過ぎる…神様が力を貸したとしか考えられない…
(PC)
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「ワン・ツー・スリー・フォー、ファイブ・シックス・セブン・エイト…」
 あたしが、夢中になって練習をしていた。今までの練習の甲斐あって間違えることはない。今日になってからの上達は望めるものではない。たんに、最終確認をしているのだ。
 あたしの目の前で、ベビーゴイルが宝箱を大事そうに抱えて飛んでいく。
「…何なのそれは?」
あたしは練習を中断して、ベビーゴイルに話しかけた。
「これは、アルスおにいちゃんにプレゼントするんだよ!おじちゃんにもらったから、なにがはいっているのか知らないんだけどね♪」
 ベビーゴイルは無邪気に答えた。
 アルスさんにプレゼント…「おじちゃん」からもらったもの…なかなかの高額商品かも知れぬっ!
「それ、欲しいなー。」
本音が、ついついこぼれてしまった。うん、事故だ。間違いない。
「欲しいの?じゃあ、あげるよ!」
ベビーゴイルの一言ににんまりとする。
「いいの?いいのね?そう、ありがとう!!!大事にするわ。中身がなんなのか気になるけど。あ、アルスさんには、あたしから花束でもつくってもってくから安心してねー」
「軽くなっていいや。大事にしてねー」
あたしは機関銃の如く話して、にっこりと笑う。ベビーゴイルも無垢な笑みでにっこりする。なんだか、騙してるみたいで良心が痛む…
「じゃあねおねえちゃん!」
ベビーゴイルは会場のほうへと飛んでいった。
(PC)
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 さあて…宝箱のチェックでもするか…なかなか重いな…アクセサリや宝石の類じゃないと思う…石かな?隕石とかだったら結構高価だよね…もしくは、魔法のアイテムとか…剣や盾という可能性もあるな…
 あたしが、そろそろ宝箱を開けようとしていると、突然後頭部に衝撃を感じた。
「こら何をしている!ボーっとしてるんじゃない!」
 振り向くと、そこにいたのはパペットマン。あたしのコーチのアダムスだった。
「痛いじゃないの!」
「もう、ダンス大会の出場者の集合時間だ!!」
「え?もう?」
「スライムレースの応援が終わって、遅いと思って来てみたら、君がにやにやと気持ち悪い笑いで宝箱を眺めていた時の私の悲しみ、君にわかるのか!!」
「はうっ!!」
 そんなに気持ち悪い笑顔を見られていたとは…痛い!
 「わかったら、さっさといくぞ!」
「…分かりました…」
(PC)
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あたしは、ここに来る前から趣味としてダンスをしていた。誰かに習ったことはなかったから、自己流だった。それが、ここに来た後アダムスと出会ったのだ。アダムスは、あたしでもわかるくらいうまかった。だから、アダムスから弟子にならないかといわれたときは嬉しかった。でも…
 アダムスは…身体は木のがらんどうのくせに、いまさら一昔前のスパルタ教育をするという熱血漢。つまり…ちょっとイターイ奴だったのだ。ダンスに必要な筋肉を鍛えるといってチューブを引かせたり。こいつの指示で、火山にいったり墓場にいったり…意味がわからない。
「限界なんて考えるな!ダンスは、筋肉だ!!筋力があれば、何でも出来る!!」
そういうとアダムスは体をばらばらにして、また組みなおすという生物未踏の踊りをして通りすがりのれんごくまちょうにジト目でみられるということもあった。
 ………さっきの言葉、「ちょっとイターイ」から「かなりイターイ」に変更。


 あたしの衣装は…淡いクリーム色の綿の布を体にまきつけトレーナーとする。ツタがちらつく足には、デニムのスカートをたなびかせる。頭にはスノウ・ホワイトのバンダナを巻きつける。そして締めに、一本一本のツタの先に濃紺のブレスレットを装着する。
 実は、この衣装はアダムスが考えたものだ。この衣装はあたしも結構気に入っていたりする。
 あたしは、一回戦の前半組で踊った。正直、始めたばっかりのひよっこには負ける気がしなかった。踊りながら、他のモンスターを見回す余裕もあった。あんまり上手く見えない。
 しばらくののち、結果発表。あたしは二回戦に勝ち進むことが出来た。その後もあたしは勝ち進み…あたしは、決勝戦に進出した!!
(PC)
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 あたしが控え室に戻ると、アダムスがいた。
「なんだかんだで、気がつけば…決勝戦じゃない!」
「そうだな。とりあえず頑張れといっとこう」
「なんだか、テンション上がってきた〜!!!」
「決勝戦に進出したのは3匹か。…やっぱり、あいつがきたか」
「・・・え?誰だかまだ知らないんだけど」
「チェリーとは昔との仲でな。魔王に従っていた頃からお互いのことは知っていた。それがここでまた逢えるとは思わなかった…ああ、チェリーというのはあのリップスのことだ」
「ふーん…魔王に従っている頃からねえ…」
「君はないかも知れないけど…私は、魔王にあったことがある」
「…へえええ…」
「それで知ったことなんだが…魔王には、女装の趣味があるのだよ」
「うん。…え?」
「人間の女の格好に変身して踊っていた。あの踊りには、誰も敵わなかったな…しなやかな筋肉が艶かしく蠢いていた…おっと話がずれた。ファイナリストは、君と、チェリー、地獄のピエロか…」
「魔王のことも気になるんだけど…あんたの筋肉至上論はそこからでてきたの…」
「またいつか話してやる」
「楽しみにしてるわ。で…地獄のピエロさんも?あの人、ダンスうまいの?」
「聞いたことはないが、見たところ実力は平均を軽く凌駕しているな」
「相手が誰だろうと、あたしはあたしのやりたいようにやるだけよ!」
「うむ。その心意気だ!」
(PC)
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 あたしは控え室から出て、外の空気を吸っていた。
「ついに決勝戦。ああ緊張してきた…落ち着けあたし…観客は…全部ナスビナーラよ…対戦相手は…カニ男ってことでいいわ…」
 あたしがぶつぶつ言っていると、いきなり声が聞こえた。
「すみませーん。ボクのオノ見かけませんか?」
デブッチョの黄色いモンスター。ブッチョマンだ。
「あの〜。オノ見かけませんか?」
「うーん。分からないわ…ごめんね」
「そうですか…ありがとうございました」
そういうとブッチョマンはそのままどこかへ歩いていった。
 んーーーー…オノといえば、自分の力に合わないオノなんて振り回していていいのかね?振り上げるのにも苦労しているみたいなんだけど。やっぱり、筋力が足りないんだろうな…そういう時は素振りでもして腕力を鍛えなきゃいけないんじゃないかな……
 はっ!なんだか、アダムスに考え方が近づいているっ!あんな、スーパーイターイ様と同類なんて…ぶるぶるぶるぶる…………!


「そろそろか…やることはやった。まあ、落ち着いていこう…」
 あたしは、あらかじめ指示されていた場所に向かった。待合地点には、会場係らしいメルビンさんと、2匹ともが集まっていた。
 リップスの衣装は…とても露出度が高い。もともと魔物は素っ裸な物だから別にいいんだけど。その大きな唇は、ストロベリーカラーに光っている。そして、藍色の水着をまとっている。ブラを巻いているようだから、そこに胸があるんだろう。
 地獄のピエロさんの衣装は…なんと、普段と全く変わらない。普段から化粧濃いし、別にいいんだけど…ダサいなあ。禍々しい青だし。肌は、生命感のない白。いつもぐるぐるやってる目玉は、ポケットとおぼしきところにまとめてしまわれている。
 無言で視線を交わす。ダンス大会という一見優雅に聞こえる代物でも、その出場者はお互いに敵対心を滲み出している。
「あんたら?」
リップスが突然声をかけてきた。
「ど、どうしたの」
「あんたら、よくここまで来れたね。でも、あんた達の腕じゃあたいにゃかなわないよ。恥かかないうちに棄権したら?」
…むっかー!!!!単刀直入すぎて、うっわー!!!!!
「ちょ…そ、それ」
激情して、いいたいことが言葉にならない。
「ま、いいたいことはそれだけ。あんたもう黙ってね」
「つっ、って、ちょ…もー!!!」
黙っていわれて、返すチャンスを失ったし…そもそも、声かけて来たのあんたでしょ!もーなんなのよ!!!
 地獄のピエロさんは、最初から相手にしてなかったみたいだった。それが一番の対応だったんだろ…ああむかつく!!リップスだけには絶対勝ってやる!!!
(PC)
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 しばらくして、開始時刻になった。
「ではそろそろでござる。司会が入場の合図をしたら、扉が開くので入場するのでござる」
「確認した」
地獄のピエロさんだけが返事をした。
「レディース・エンド・ジェルトルメン!お待たせしました!ダンス大会いよいよ、始まりまーす!!」
司会の声が頭上から聞こえた。魔法の力で声を伝えているのだろう。誰の声だかわからないが、フライングデビルの声に似ている気がした。
「ぃぃぃぃいぇええええええええぇぇぇぇぇ!!………」
厚い壁の向こうからかすかに歓声が聞こえた。祭り好きな魔物たちが見物に来ているみたいだ。
「では、早速始まりまーす!出場者の、入場ーーーー!!!」
メルビンさんが、重そうな木の扉を開ける。
 あたしを先頭に、リップス、地獄のピエロさんの順で入場する。目の前に広がる多くの魔物たちの視線が、こちらに集まっているのを感じる。左手には、アルスさんがすわる主賓席と、アイラさんと数人の審判がすわる審判席。目の隅に、「キャシー優勝」と書いてある張り紙が見えた。それを持つのは、ブチュチュンバ、マジックリップス、おばけうみうし。…同系の誼だろうか。
 そして、舞台隅の選手席に座った。正面には、「リップス、1.5倍 地獄のピエロ、2倍 ローズバトラー、8倍」と書いてある看板があった。一番不人気…ちょっと悔しい!


 アイラさんのお話が少しあったあと、司会の声が響いた。
「では、早速競技開始です。最後にエントリーした彼女。その体は、血の色で染まる。しかし、そのダンスはしなやかかつ繊細。エントリーナンバー6番!!ろーーーーーーーーーーず!ばとらーーーーー!!!」
 あたしは立ち上がり、舞台真ん中に歩み出た。スカートが翻る。観客達の拍手が聞こえるが、さっきより小さいみたいだ。みると、赤い髪の人間がトゥーラを持っているのが見えた。
 …やるっきゃない。あたしは、自分のブレスレットの付いたツタを見つめていた。
「曲は『愛する人へ』です。では、踊ってもらいましょう」
司会の声の後、舞台隅から『愛する人へ』が聞こえてきた。あたしは、ツタをあげて踊り始めた。
(PC)
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 やれることはやった。それが、審判にどう届いたのかは判らないけど。
 司会の声が、会場に響く。
「続いては、この男の登場です。目玉くるくる。目玉くるくーる!!!!!!!!!エントリーナンバー8番!!地獄のーー!!ピーーーーエーーーーローーーー!!!!」

 ずでででんでんっ!

「なにその適当な紹介わっ!!」
 思わず、あたしは突っ込んでいた。それにかまうことなく、観衆は大盛り上がりだった。
 地獄のピエロさんは、会場に出て行った。それを見送っていると、腐った死体が視界に入った。
 自分が踊り終わって、緊張感が途切れていたのかもしれない。
何を考えてるんだかわからない顔。
 それを見て、あたしは、ある日のことを思い出していた。
 

 あたしは、ツタでチューブを引かされていた。
「こらボーっとするな!またやつらの手を差し向けるぞ!」
アダムスがなんか喚いている。あたしは、動く気力もない。
「毎日、筋トレばっかりで、練習になりやしない…もういやになった」
「ふむ…さすが気が強いな。私の説得に応じないとは」
「どこが説得じゃあ!!!!!」
「しかし、こいつらの魔の手にかかってもいいのかな?」
あたしの華麗なツッコミをシカトして謎の言葉を吐くパペックマン。
「こいつらってなによ」
「ふふふ…異形のその姿を汝恐れるべからず。彼の者を受け入れろ…」
腐った死体が現れた!デスクリーチャーが現れた!腐った魔獣が現れた!マルチアイが現れた!
「出でよ!ぐじゅぐじゅーズ!!!」
「なんちゅうネーミングセンスじゃああああああ!!!!!!!!」
「これでもまだやめるなんていうのか?」
「……もう、どうにでもして…」
あたしはもう、このスーパーイターイ様に反抗する気をなくしていた。
(PC)
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 大きな拍手が響いた。あたしは我に返った。
「!?しまった!!」
あたしが最悪の思い出を回想している間に、地獄のピエロさんは踊り終わっていたようだ。
「…なんだこりゃあーー!!」
あたしの視界に入ったのは…

  一面に散らばった、真っ青な鮒。

 会場のあちらこちらに鮒。鱗が青く光り、目の前を真っ青に染めている。
「ふーな!ふーふーな!ふーな!ふーふーな!…」
 観客席の魔物たちは、手に、もしくは肩などでふなをもって左右に振っている。ショックなことに…
「ああああああああ…アイラさん、あなたもデスカ…」
 アイラさんも、鮒を大きく左右に振っていた。な、何があったんだー!!!!!!!!
 何事もなかったように、地獄のピエロさんは目玉クルクルさせながら戻ってくる。それを見た観客達は、鮒を懐にしまう。会場も、魔物たちにより片付けられていく。
 なんだか、聞いちゃいけない何かが起こったんだろー…うん。知っちゃいけない何かなんだ!
(PC)
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「最後は、その踊りは魔王をも唸らせた。ダンスのためは身を捨てる、実力は折り紙つき!!!エントリーナンバー1番!!リップスゥゥゥゥ!!!!!」
 隣のリップスが進んでいった。それを見ていた地獄のピエロさんと目が合う。
 地獄のピエロさんは、こちらを無言で見ていた。その顔からは、メイクに隠れ何の表情も読み取れない。なんだか、具合が悪くなったので、舞台のほうを見直した。
「曲は、『街』です。では、どうぞ!」
『街』?聞いたことがないな…
 音楽が始まった。リップスは……
「はあっ!!!???」
……扇子を両手に持っていた。
真っ白な扇子に、真ん中にどでんとした日の丸。
「らんらっらーらんらっらー」
……リップスは、何を考えてるのかわからない、なんともいえないがなんとなくイメージできそうなよくわからない表情をしている。
あたしは思わず目を背けた。
すると、会場中に響かせて、声が聞こえてきた。
「もりそば様、うおのめ様、薫様…至急、本部席までお越し下さい」
「キャシー優勝」の看板を持っていたブチュチュンバ、マジックリップス、おばけうみうしが立ち上がって動いていく。
………うおのめって…

なにやねん!!!!意味わからんわ!!
(PC)
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 何一つ躍動感のない踊りが終わって…次は、結果発表だった。
 リップスには勝てたと思う。あの踊りの、いいところが見つからない。
 あたしの踊りに、ミスはなかったはずだ。でも、もしかしたら、ミスはなくても魅せる要素があったか…と思うと不安になる。
 地獄のピエロさんは判断が出来ない。会場中をひとつにした…踊りってレベルじゃないって感じ…本当に、踊りをしていたのだろうか。
 アイラさんが舞台に立った。会場に静寂が訪れる。
「今日はありがとうございました。あなたたちのダンスを初めてみるので少し不安だったけど、思ったよりはるかにレベルが高い戦いで驚きました。…では…発表です!」
ついに…発表だ…
「優勝は…」
ごく。
静まり返った会場中に、あたしの生唾が聞こえているような気がする。
「ローズバトラー!」
頭の中にそんな声が響いたような気がした。
 自分が勝ったと言うイメージを持とうとする。しかし、不安がそれを打ち消す。
「地獄のピエロ!」
今度はこんな声。
最初から、負けたというイメージを持っておけば、いざというとき、あまり悲しまずに済む。しかし、それがどれだけちがうかというとたいした量ではない。それに、そんな後ろ向きな考えはなんとなくいやだ。


「審査員全員一致で…」
アイラさんが言った。圧倒的ということか。

「リップスです!」
アイラさんの声が観衆に届いた。それやまもなく会場はどよめいた。
「……っ」
言葉にもならなかった。負けたという実感はわかない。ただ、理由がわからない。どこが上手かったとか、せめてもの理由があれば…
「2位はローズバトラー、3位は地獄のピエロです!」
…2位らしいけど…喜ぶ気になれない。納得がいかない。
「静かに!」
アイラさんの一声で会場のどよめきは消えた。
「みんな、少し納得がいかないのかもしれない。でも、リップスのよかったところはね。
 激しさはない。でも、目をひきつけられるリズム。思わず見たくなる艶かしい動き。それは、日常のなかの小さな幸せを感じさせる。これが、万人のための踊りだと思う。
 激しいだけ、楽しいだけのダンスは、心に残らない。それは、何を伝えようとしているか判らないから。でも、リップスの踊りは違った。みんな、そう思わない?」
さっきまで騒いでいた魔物たちが、今度はうなずいている。
 あたしは…なんか、そういうものかって思えてきた。つまり、パンチがなかったってことか…
 もうどうでもいいや。疲れた…
(PC)
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「なお、ストーンビーストに、審査員特別賞を差し上げます。
 では…最後に、みんな踊ろう!」
ん?
アイラさんが合図をすると、音楽が流れてきた。
「みんな会場に降りてきて!」
戸惑っていた魔物たちも、音楽に押されて降りてきた。
「曲は、『トゥーラの舞い』です!上手さなんてどうでもいいから、レッツ・ダンス!」
アイラさんが、踊り始めた。
 それをみて、魔物たちものそのそと踊り始めた。
「あんた?」
声が聞こえた。この声は…
「優勝、お・め・で・と・う!とても上手くて、あたしなんかとても敵いませんよ!」
リップスだった。
「いやいや、いやみを言いに来たわけじゃないよ」
「え?」
「あんた…なかなか上手いじゃん」
思いもよらない言葉だった。
「あたいも今回は少し特殊な踊りしたけど…今度は、正統派ダンスで戦おうじゃないか」
「…望むところよ」
「ああ。また、よろしくな」
リップスが手を差し出してきた。
 あたしは、ツタを出してその手を握る。
「じゃあな。練習サボんじゃないよ」
「…はい!」
 手を離して、リップスは魔物の雑踏に消えていった。
…思ったよりいい奴なのかも…
 魔物たちは、すでにノリノリで踊っていた。リズムに乗れていないのもいる。でも、みんな、楽しそうだ。
…いまはどうでもいい。
楽しく踊れれば…いいか★


おしまい
(PC)