塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板
過去ログ2492
2014/8/14 10:20
▼世話係お楽しみください、花の命は長くはない。
8/14 10:20
▼わかけんえ〜と。下世話なコメントですが、
「だめよ、だめだめ」
の60年安保バージョンが出ました。
非常にエロチックなシーンです。
戦後15年の青春ですな。
今のように、自室やラブホではドラマになりません。
にしても、この頃からかなり大胆に書いていますね。
耳なめのお蝶につながるプチマリでもあったのか。
8/14 10:12
▼世話係プチマリ 9 どこかに行かない。冷たいもの飲みに。
行こう。私はプチマリの手をとって歩きだす。
手をはなして。
いやかい。
でも、みんながジロジロ見るんですもの。
見たってかまやあしない。何も悪いことしてるわけじゃあないし。
プチマリは笑った。そうしてもう何もいわない。私は彼女の柔らかい手をにぎりしめた。
今日は学校休みだったの。
いや、休みじゃない。
サボったのね。
仕方がないよ。先生が授業を休講にしてくれなかったんだから。
デモじゃあない時だってサボってるんでしょう。
まあね。授業がつまらない時はね。
街の角の小さい喫茶店でジュースを飲んだ。
プチマリがストローを手にしたまま笑った。
あんたの顔、真っ赤だわ。
君は今日、ドレメ(ドレスメーカー)をさぼったね。
さっきのしかえし?
四時までひまだね。
どこかに行く?
私たちはバスに乗った。私はいらいらしていた。
あのね。マスターとマダム、離婚したのよ。
自動車の騒音で私には聞こえない。
つまらないとわかっている授業に、単位がほしいばかりに出席する時の気分はみじめだよ。
あのね。マスターとマダム、離婚したのよ。マダムに若い恋人がいることがバレたの。
バスがゆれ、私はプチマリの持っていたつり革につかまった。彼女は笑う。笑うと、上の歯の左がわの一枚が少しとびだしているのが見える。私は彼女を早く抱きしめたい。私はいらいらしていた。
終点でおりた。小さい山のふもとだった。ほこりだらけの菓子屋でミジンコキャラメルを買った。秋晴れだった。快い風がふいていた。だが、私たちは無関心だった。私たちは山をのぼっていった。
もっとゆっくり歩かない。
私のうしろでプチマリがいった。
頂上近くで、道から少しはなれた木陰に私は座った。彼女が私の前に立った時、私は彼女の太股を抱きしめ、顔を彼女のスカートの中にうめた。私は体臭と暖かみを顔に感じた。彼女が私の頭の上に手を置いた。彼女の指は私の髪をつかんだ。
だめよ。だめよ。彼女が声をころしていった。
人が来るわ。
子供の高い声が遠くに聞こえた。
私たちはそこを出た。山をのぼって行った。途中で、棒をふりまわしながらおりてくる五人の子供に会った。
山をのぼりこえてから、私たちは雑木の中にわけいった。
8/13 23:40
▼咲お盆です。札幌も七日めになりました。おりくぜんを作り、お墓まいりを済ませました。時間は永遠ですが、永遠ではありません。もう少し早く来ていたらと、後悔しました。残り七日を悔いないように過ごします。
8/13 9:03
▼世話係プチマリ 8 おじの顔を見る。疲れて青いはだを見る。酒をのむと真っ赤になり脂汗のふきでるはだを見る。おじは退職金を飲んでしまった。酔って帰ると病気のおばをなぐりつける。おばは悲鳴をあげるが逃げない。私がおじをとめようと思って、唐紙を開けた時、私は真っ裸のおばを見た。おばのたれ下がった乳房を見た。
おじとおばの家庭。この家庭はもうおしまいなのだ。すでに死んだ家庭なのだ。彼等は生きながら死んでいる。
私は食費を払った。家賃を払った。私はアルバイトをした。ありとあらゆる金になる仕事をした。大学四年間、私は夏休みを知らない。一日三百円で氷の運送。一日二百円で喫茶店の皿洗い。私の手は大きくてかたい。
古いものはやがて死にたえよう。おばは悪臭を発しながら肉体をくさらせる。私はバス賃を倹約するために歩く。私は家庭教師に行く。私は疲れはてる。だが、私は、明日、プラカードをかかげてねり歩くのだ。どんなことがあろうと、人類を再び戦争にかりたてることは許せない。
私は無言でローラーを押した。彼女は無言で用半紙をめくった。
第三章
私の持ったプラカードには、「原水爆反対」と「安保改定反対」と書いてあった。秋だというのに私の額は汗にぬれる。背中もビッショリだ。私の右隣の男も左隣の男も、全然知らない。それなのに、私の腕に組みあわされた二人の男の暖かみと、耳元に聞こえる叫び声が非常に親しい。前を行く男の背を見る。彼も私もみな一つだ。オレタチの足音は一つだ。ワッショイ、ワッショイ……アンポ・ハンタイ……アンポ・ハンタイ……ワッショイワッショイ。オレタチの叫びは一つだ。ジグザグ行進に移った。興奮して顔が火のようだ。私は叫ぶ。私は走る。私のやっていることは正しい。私のエネルギーが世界平和につらなる。
電車通りを横断する時、私は舗道の上から手をふっているプチマリを見た。彼女の額のニキビを見た。私は一つ大きくうなずいてみせる。デモの列は再び左に曲がり、私は彼女を見失う。私は叫ぶ。ワッショイ、ワッショイ。汗がふきでる。
デモは最後に橋のたもとで「平和の歌」を歌って解散した。プラカードを置いて人々の外に出た私をプチマリが迎えた。
私は彼女の渡してくれたハンカチで汗をぬぐった。ハンカチは汗で真っ黒になる。私はそれを彼女に見せて笑った。
のどがかわいたでしょう。
どこかに行かない。冷たいもの飲みに。
8/13 0:40
▼世話係プチマリ 7 私にもね。彼女は鉛筆で自分を指していった。
ぼくも両親がいないためいろんな苦労をしたけど、今さらすんだことをいったってしょうがないんだ。大切なことは明日、再び戦争をくりかえさないことだ。
彼女はドイツ語の本をとじて立ち上がった。
ありがとう。あなたはこれからどうするの。
明日の集会のアジビラを刷らなきゃあならない。
ひまだから手伝うわ。いいでしょう。
私たちは図書室を出た。
君、集会に来てくれる?
駄目。
就職のためか。
ええ。
おかあさんが働いてるのか。
県庁の掃除婦よ。
ぼくのおばは子宮癌だが、入院する金がない。
おばさんの家にいるの?
食費を払ってね。
あなた、どこに就職するつもり?
どこでもいい。ぼくに希望はない。
さとってるのね。
そのぼくが結婚しようとしている。
あら、その人どんな人?
喫茶店で働いている。
この部屋で刷ろう。晩までにはすましたい。五百枚刷りたいのだが原紙がもてばいい。
私は無言でローラーを押した。彼女は無言で洋半紙をめくった。インクの匂いがした。私の目の下に「安保改定を阻止しよう」という文字が無限に流れた。私の胸が痛くなる。汚れた小さい部屋は次第に暗くなる。
おばの顔を見る。目をつむっている。ねているのかおきているのか。死んでいるのか生きているのか。顔中の筋肉がたるんで深い醜いしわをつけている。土色のはだ。おばの内部はくさりつつある。
妹が台所から出てくる。妹がおばに晴着が一着ほしいという。おばの目は見開かれ、充血する。おばは立ち上がり、妹をなぐる。妹はほおを手でおおって、青白い恐怖を浮かべる。おばの口がしきりに動く。黄色い歯が見える。私はおばの声を聞かない。だが私はおばのいってることを理解する。おばはいっているのだ。寒い思いをせんだけでも感謝すればいいものを、その上、あれを買え、これを買えだって、人をなんだって思っているのさ。妹は泣いた。私は妹をつれて外に出た。そしてふるえながら冬の夜を歩いた。もう、私はあの家にかえらない。妹はいった。それからおばの悪口をいった。
数年前の思い出だ。妹の泣き声を忘れない。私は無言でローラーを押した。
おじの顔を見る。疲れて青いはだを見る。酒をのむと真っ赤になり脂汗のふきでるはだを見る。おじは退職金を飲んでしまった。
8/12 1:47