塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板

過去ログ2099 2013/6/10 0:27

▼世話係
14-4
「つやは薮入りで、夕べ、入船町の家にもどりましたよ。おまえさんはまだ酔いがぬけてないようだ」
お多可があえぎながらも、はっきりといった。声からすると傷はふかくはないようだ。
「つやがなんでおれにうそをつくべえ。もう、おめえら夫婦にゃだまされねえ。ひまをだされるそのまえに、たんすの小判や櫛にこうがい、お師匠の着物をいただいて、さっさとここを出て行くまで」
 「飼い犬に手をかまれるたあ、このことか」
 「それ、話はもうおわりだ。命をいただく」
 直助は気をふるいたたせるようにどなると、刀の先を庄左衛門ののどにむけた。ちゅうちょもなく、えいっとつきだした。すばやくかわしたので、刀はそれて、あごからほおをかすり、耳たぶを切っておわった。血の玉が飛んだが、たたみにしみをつくったほどだ。
 「直助、おねがいだから先生をたすけてあげて。小判だろうと、わたしの着物だろうと、ほしい物はぜんぶもっていってよいさ」
お多可が哀願し直助の腕にとりすがろうとしたが、つよく足げにされ、座敷の隅にころがった。
 「こやつ。なにをしやがる」
 庄左衛門はかっとしてなぐりかかったが、こぶしをうまくかわされた。直助の背後の床の間にある三原を取りたい。
「にせ医者め、これでもくらえ」
つぎの一撃はまっすぐに庄左衛門の胸にむかい、刃先が小袖をつきぬけて肋骨にあたった。その衝撃でひざがおれた。
 「うむ」
 胸のあたりに血がにじんでくるのがわかったが、いたみがはげしいのは、ねむっているときに刺された腹の傷のほうであった。腸にまで刃先が達していれば、手当てをしてもおそすぎる。
 「よくも、直助」
どろ棒かぶりの顔を見あげて、手で腹をまさぐった。あたたかい血のりを指に感じた。酔いのせいで体は意のままにならないが、敵をねじふせる自信はまだうしなわれていない。
 「直助」
と、庄左衛門はくりかえし、冷静な声で語りかけた。なにもかも話してやろうと思った。そう決心すると、これまでずっと堰(せき)きとめられていた感情がうずまきながらほとばしった。
「たしかに、直助、おれは赤穂藩の浪人だ。
6/10 0:27

▼世話係
14-4
「つやは薮入りで、夕べ、入船町の家にもどりましたよ。おまえさんはまだ酔いがぬけてないようだ」
お多可があえぎながらも、はっきりといった。声からすると傷はふかくはないようだ。
「つやがなんでおれにうそをつくべえ。もう、おめえら夫婦にゃだまされねえ。ひまをだされるそのまえに、たんすの小判や櫛にこうがい、お師匠の着物をいただいて、さっさとここを出て行くまで」
 「飼い犬に手をかまれるたあ、このことか」
 「それ、話はもうおわりだ。命をいただく」
 直助は気をふるいたたせるようにどなると、刀の先を庄左衛門ののどにむけた。ちゅうちょもなく、えいっとつきだした。すばやくかわしたので、刀はそれて、あごからほおをかすり、耳たぶを切っておわった。血の玉が飛んだが、たたみにしみをつくったほどだ。
 「直助、おねがいだから先生をたすけてあげて。小判だろうと、わたしの着物だろうと、ほしい物はぜんぶもっていってよいさ」
お多可が哀願し直助の腕にとりすがろうとしたが、つよく足げにされ、座敷の隅にころがった。
 「こやつ。なにをしやがる」
 庄左衛門はかっとしてなぐりかかった。直助の背後にある床の間に三原を取りにむかったが、こぶしをうまくかわされた。
「にせ医者め、これでもくらえ」
つぎの一撃はまっすぐに庄左衛門の胸にむかい、刃先が小袖をつきぬけて肋骨にあたった。その衝撃でひざがおれた。
 「うむ」
 胸のあたりに血がにじんでくるのがわかったが、いたみがはげしいのは、ねむっているときに刺された腹の傷のほうであった。腸にまで刃先が達していれば、手当てをしてもおそすぎる。
 「よくも、直助」
どろ棒かぶりの顔を見あげて、手で腹をまさぐった。あたたかい血のりを指に感じた。酔いのせいで体は意のままにならないが、敵をねじふせる自信はまだうしなわれていない。
 「直助」
と、庄左衛門はくりかえし、冷静な声で語りかけた。なにもかも話してやろうと思った。そう決心すると、これまでずっと堰(せき)きとめられていた感情がうずまきながらほとばしった。
6/10 0:21

▼咲
上野
肉の大山さん……ではないのですが、上野で食べ過ぎ。一人で東京駅まで歩きました。ちょっと休んで、門仲まで歩きます。
汗をかいて、頭をかいて、書き進めます。
岡坊さん、きばってください〜。
6/9 20:27

▼大魔神α
叫び
アルアルアル
アルファー!
あーうー
6/9 17:42

▼世話係
14-3
「なんだ。おまえさんは直助ではねえか」
お多可がさけび、口を手でおおった。おどろき、あきれた声だ。
「なに」
「あなた、な、直助だわ」
荒い息をしながら、こんどは小声でお多可はくりかえした。大声をあげなかったのは、近所に知られたくないと判断したためだろう。
「おめえ、直助」
見世の土間に散乱した光が座敷にまでとどいた。手ぬぐいを泥棒かぶりにしていたが、ふとい手足、すこしまえかがみの背、中肉中背の体つきは直助であった。
 「な、なんでこのようなことを」
 相手の正体がわかって、庄左衛門はおちついた。
 「……」
「これ、なにを血まよいやがった。直助、主殺しは重罪ぞ。市内引き回しに、斬罪、さらし首だ」
 「うるせえや、ざ、斬罪がなんだべえ。お上をおそれてなにができようか」
と、直助はいいはなった。声はいつもの直助よりも高く、興奮しているのだろう、こまかくふるえた。
「直助、やめなされ」
お多可がかすれた声で哀願した。背中に刀をあびたのがいたむのか、ふとんに尻をおとして手をついている。
「こら、いつからそんな悪人になりやがった」
 「おめえだって、おんなじだべえ。中島隆碩たあ、まっかなうそ。ほんとは、世にひそむ赤穂の浪士だろうが」
と、刀をつきつけてどなった。
あたりはしんとしている。
遠くで野良犬がほえた。
 「そうだとしたら、こりゃ直助。それがどうしたというのだ」
 酔いで頭の芯がくらくらするが、直助なら他愛もない。刀さえ手にすれば討ち捨てるのも容易だ。むかいあって、相手のうごきに注意を集中した。
 「どうもこうもあるもんか。てめえのうそがばれるのがこわくて、おれにひまをだすとは、あまりにも身勝手ではあんべえか」
 「ひまなぞだしてねえ」
 「小正月明けに、板橋の馬屋にもどすつもりでいるのは百も承知だべえ。つやがおれにおしえてくれた」
「そんなこたあねえ。つやがききまちがえたのだ。つやにきいてみればよい。これ、つや。つや」
つやがとなりのへやでふるえているように思えた。
「つやは薮入りで、夕べ、入船町の家にもどりましたよ。おまえさんはまだ酔いがぬけてないようだ」
お多可があえぎながらも、はっきりといった。声からすると傷はふかくはないようだ。
6/9 6:36

▼世話係
なるほど
早めの父の日でしたか。
ああ、わしが父だと。
飲みまくりましたよ。
6/8 23:29

21002098

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