塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板
過去ログ2096
2013/6/6 0:10
▼世話係13−7わしはお師匠にねがいでた。すると、『ちょうど薮入りの時期だな。夕食の片付けがすんだら帰ってよいよ。それまでに、みやげを包んでおいてやろう』といわれた」
徳利からまた飲み、母を見かえした。しわがひたいやくちびるのまわりにいっぱいできていた。金壷まなこの底からじっとつやをさぐっている。
「ありがたいことだ。いいお師匠だね」
とだけ、お七はいった。
「じゃあ、直助さんがうそをついたというのか。わしをからかったというのか」
と、つやはむきになった。少々、酔いがまわっていた。
「男ってやつは、とんでもねえうそをいうものさ」
母らしいいいかただ。
「なんでわしにうそをついたか。まさかこんや、お袖が小屋にしのんでくるのではあるめえな」
つやは、はっと気がついた。瞬時に顔色がかわったのだろう、お七がすかさず、
「おめえ、その直助とかいうのとできたな。それでさっきからそいつの肩をもったり、やいたりか」
と、きびしい声で問うた。
「ああ、そうだ、そのとおりだ」
図星だった。母にはかくすことはない。つやはすぐにいいたした。声がすこしかすれて胸がどきどきした。
「おっかさん、わしは直助と夫婦(めおと)になるさ。その約束をかわした」
「中島先生はごぞんじか」
「いや、まだ知らねえ」
6/6 0:10
▼世話係13-8「先生が仲人(なこうど)ならともかく、そうでねえなら、つや、おめえはひまをだされるにきまってる。どこの世間に、下男とひそかに通じてる女中を置いてくれる家があるものか。つや、おめえ、とんでもねえことをしてくれたな」
と、母はいきなりおこりだした。そういえば、去年の暮れに、先生から直助のことをたずねられ、おかしなことになると名分(めいぶん)がつかねえからな、と念をおされたのを思いだした。
「なんとかするさ」
と、つやはうなだれた。
「ああ、ああ、ばかなむすめが。傷ものにされたうえ、身の置きどころもなくなったわ」
おこっていた母の声がだんだんとしずみ、最後にはしゃくりあげだした。
「ちっ、こよい、ここへもどってきたのはわしのまちげえだった」
つやは徳利にのこっていた酒をごくごくと飲んだ。かっと熱くなるのもかまほずにあおった。母のいうとおり、直助の言葉を真にうけたのはまちがいだったのかもしれない。討ち入りがあろうとなかろうと、庭のおくの小屋にしのんで行き、わらのなかで直助とはだかで抱きあっていればよかった。
「おっかさん、ただいま」
夢のなかで、妹のまつがいった。
「あれ、おっかさん。どうして泣いてるのか。あれ、そこに寝てるのはねえさんでねえか。なにがあったのさ」
鼈甲屋(べっこうや)からまつがもどってきていた。つやは気づいたが、そのままねむりにすべりおちた。
夜明けと同時に万年町の屋敷にもどるつもりだ。
6/6 0:09
▼咲包丁とぎいまでも。谷中銀座でやってはりますよ。深川でも、見かけたような?
6/5 23:24
▼わかけんそういえば大島と西大島の間の路上に、包丁磨き屋さんが座って商売してました。久しぶりに見た気がします。
上野に住んでいた10年前、何度か見かけましたが。
いえ、瀬戸物焼き接ぎが出てきたんで。
6/5 10:48
▼世話係13-6「瀬戸物―、焼き接ぎーーーー」
と、声をたかめて歩きまわる。休むとそれだけ実入りがへるから、雨がふっても雪が舞っても出かける。朝早くから日暮れまで、暑かろうと寒かろうと出かける。そうして、七人の子の食い扶持をかせいだ。
そのつらさがつやにもわかるようになった。
「つや、こっちにこんか。そっちの座敷にゃ、もう人の入る余地があるめえ。むかしゃ、だれもがちいさかったから、くっつくとどうにか寝られたが、みなの体がおおきくなってしまった。おめえは、こっちの板の間でおっかさんと寝るといい」
と、かまどのまえから、お七が呼んだ。
「へい」
徳利をもって三畳ほどのひろさの台所へもどった。
「おめえも飲むようになったか。ほどほどにしろよ。大酒ゃ体によくねえ」
「ははは、大酒、飲むほどのカネがどこにあるか」
うそぶいて、つやは徳利を口飲みにした。酒も色も直助がおしえてくれた。ときには博打ですってカネを貸せともいうが、直助といればいつもたのしかった。昼間の仕事のつらさもわすれていられた。
「それでいつまでおる」
「こんばんだけ」
とこたえ、つやは母とならんですわり、へっついで暖をとった。かまどには火種がある。灰にうめておいても、ほのかなあたたかみを発していた。
「医者の家は水仕事がおおいようだな、手も足も霜焼けだらけでねえか」
お七はやせた手でつやの体のあちこちをなでた。
「なに、いつも直助さんがくすりをぬってくれる。それにもうすぐあたたかくなるし、心配はいらえ。それより、こんや、先生の家に討ち入りがあるときいた。おっかさん、なんのことかわかるか。討ち入りというのは、そこの主人の首をねらって、敵が夜討ちをかけてくることだろう」
「だれがそんなことをいったのか」
「直助さんだ」
「そんな荒唐無稽なことが、いまどきあるもんか」
「でも、中島先生は赤穂藩の浪人だそうだ」
「赤穂藩? おめえはまだねんねだ。かつがれたのさ。その直助とかいう下男に」
母はつやをじっと見た。月の明かりが小窓からさしこんでいた。
「直助さんはそんな人ではねえ。『ここにいると命までがあぶねえ。ぜひ、休みをもらって入船町の家にもどれ』と、そうきつくいうものだから、わしはお師匠にねがいでた。すると、『ちょうど薮入りの時期だな。夕食の片付けがすんだら帰ってよいよ。
6/5 0:03
▼咲ひめごそ神社西口さん、いきなり、すみません。
ひめごそ神社、見つけました。日本霊異記の下巻31、生石伝説です(ちくま学芸文庫、多田せんせいの)。
霊異記に引き込まれます、おもろい。慣れてきました。
6/4 13:29