塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板

過去ログ2092 2013/5/31 4:02

▼世話係
13-1
十三、入船町

 つやは日の暮れた道をいそいだ。
人通りが絶え、法乗院のお不動さまも、この時刻にはお参りする者はいない。えんま堂橋(富岡橋)のたもと、やなぎの根もとに、そば屋の屋台があるぐらいだ。
ちょうちんはもっているし、木場のほうの空には満月があがった。屋根や樹木のかたちもはっきりとしていて、くらやみから不意になにかが飛びだしてくることはない。
それでも、つやはこわい。
鳶(とび)のなりの男が橋のうえにあらわれた。酔っているらしく千鳥足だ。こちらにくるのかと体をこわばらせたが、屋台に首をつっこんで、
「おやじ、いま、なんどきだ」
と、大声でたずねている。そのすきに、つやは背のふろしき包みをゆすりあげ、えんま堂橋をわたった。
入船町の実家までは十町とすこし、小半時(三十分)の距離だ。橋をわたると左におれ、油堀の岸を行く。黒江町のさきは、もう永代寺の門前仲町になり、ここまでくると人びとが行きかい、ちょうちんがいくつもうごいていた。小田原ぢょうちんを轅(ながえ)のさきにぶらさげて駕籠が走ってきた。火の用心の夜まわりもいる。
「こよい、なにがおこるのだろうか」
「万年町一丁目の中島先生の屋敷でなにかがおこる」
「ほんとうに討ち入りがあるのかどうか」
「直助の身に危害がおよばなければよいのだが」
おのれの頭ではわからないことばかりだ。早く家にたどりつき、おっかさんに一部始終を話して相談したい。つやは足を早めた。
正月二日の夜、半鐘の音で仮寝から目ざめ、直助の小屋に行こうと、しのび足でへやをでた。通路の土間におりてぞうりをくらがりにさがしていると寝間で声がした。
「まだ、おきてやがるのか」
と、身をかたくしたとき、直助という名を耳にした。お師匠が、
「直助は仏壇の位牌を」
と、くらい声でひくくなげいた。
 つやはもう、きかずにはいられない。あんどんの明かりに映えている障子戸のほうへ土間をすすんだ。さむさも、足うらにふれる土のつめたさもわすれた。
「いろいろと知られるとこまる。知られるめえに、やつを板橋宿の馬屋にもどしたらどうだろう」
と、先生のくぐもった声がした。直助が大黒屋の薬礼をちょろまかした件でおはらい箱にするのだろうか。しかし、三両はつやが小屋から取ってきてちゃんと返した。それですんだことではないのか。
「なんとつれねえことを」
と、つやが腹を立てていると、
5/31 4:02

▼小梅村
わかけんさん
わかりました。
よろしくお願いします。
5/30 11:11

▼世話係
半鐘の音
これで終わりです。
明日から、「十三、入船町」です。
5/30 6:55

▼世話係
12−5
「拙者、じつは赤穂の浪人だ」
と、早蕨にうちあけたのは、板橋の宿におちついてからだが、それ以来、お多可は庄左衛門の脱盟を自分のせいのように思ってしまい、気のつかいようがいっそうこまやかになった。庄左衛門について世間に流布しているうわさも、どこかで耳にしただろうが、ふたりのあいだでそのことにふれたことはない。万屋にいわれたことを話すのは、ふさぎかけた傷口に塩をすりこむようなものだ。
「直助は仏壇の位牌をしらべたりしておったのですか」
お多可はくるしげに息を吐いた。
「そうだ。それに、あのときだ。やつをとっちめて三両を返させたとき、直助はにやにやして、『番所にゃ、つきださねえのか』といいやがった。あれは、おれがすねに傷もつ者と知ってのうえでの台詞(せりふ)ではなかったろうか」
「たしかに、いわれてみれば、そのような」
と、お多可は天にむけてなげいた。
「どうしてやつが、おれを詮索する気になったのかはわからねえが、いろいろと知られるとこまる。知られるめえに、やつを板橋宿の馬屋(うまや)にもどしたらどうだろう。まな板の鯉になって、なにもかもがばれるのをじっとまつわけにはいくめえな、お多可」
腹ばったまま、地にむけて声をおとした。
「おまえさんがそうしたいのなら、それはそれでよいけれど、ま、正月のあける十五日までは穏便(おんびん)にすましてはいかがですか」
「おめえのいうとおりだ。そうしよう」
「だれか、つやか」
 お多可がかけぶとんをはねとばしておきあがった。寝巻きのまま立つと、土間の通路とのあいだの障子をがらりとあけて、暗がりをのぞきこんだ。
5/30 6:54

▼世話係
12−6
「こら、直助か」
 庄左衛門も飛びおき、床の間の三原をつかむと、お多可のそばから土間をのぞいた。くらがりににうごくものはなにもない。
 「あたしの気のせいでしたか。あれまあ、刀までおもちか、おまえさんは」
 「ねずみか」
と、だれでもがいうことを口にしたとたん、三角屋敷のねこにくわえられたどぶねずみを思いだした。針金のように硬直した灰色のしっぽが断末魔のけいれんをしていた。
 「話が話でしたから、気が張っておりました。ごめんなさい。そういうときには、ちいさい音もおおきくきこえるといいまする」
お多可は弁解するように小声でつぶやいた。
「つやにしろ、直助にしろ、どんな考えですごしておるのか、おれにゃあ、見当もつかねえ」
「直助はいまでもつやのことを、すいてるようですよ」
といって、お多可はふとんにもどった。
「あんな女のどこがよいのか」
「ほほほ」
「なんだか、なまあたたけえ夜だな」
敷ぶとんのうえにあぐらをかいた。
「こよみのうえでは、もう春でございます」
 「半鐘の音はどうだ。もうやんだか。おれはちかごろ、年のせいで耳がとおくなった」
 「もうやみましたよ。ねむれないのでしたら、お肩でもおもみしましょうか」
 「ははは、先手必勝か。さきに夜酒を封じられたか。おめえはほんとにかしこいおなごだ」
5/30 6:53

▼世話係
日曜、
傘マーク、とれればいいですね。
5/30 0:17

20932091

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