塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板

過去ログ2052 2013/4/26 7:04

▼世話係
9ー8
声が板戸のまえでした。傘のあぶら紙に軒のしずくがはねる音がきこえた。
「ど、どうしたらよいか」
つやは小声でささやいた。いまにも泣きそうになった。
「はあ、いま、あけますべえ」
といいながら、直助はつやをつよく引っぱった。板の間のすみにつれて行った。ゆか板をはがすと、地下に室(むろ)があった。
「はいれ」
声にださずに直助は目で命令した。
つやは穴にとびおりた。意外とふかく、足首がねじれた。直助が板をしずかにもどすと、頭が押さえつけられてまっくらになった。たるの大豆が発酵するにおいがする。穴のなかには温気(うんき)がこもっていて、おかげでさむくはない。
 「なんで早く戸をあけぬ」
 お師匠の声がいらだった。
「へえ、いってえ、なんでございますか」
「おまえこそ、なにをしてた」
「なわをなっておりましたべえ」
「まさか、つやはここへきてはいまいな。おまえを呼びにやろうとしたが、納戸にも井戸にもいねえ」
お師匠は小屋に入って見まわしているようだ。
 「厠(かわや)ではねえですか」
と、直助がこたえた。
 「女の月役(つきやく)かな。さっきも、ながいこといなかったし」
と、お師匠がひとりごとのようにいった。
 「へ、へえ」
 「直助、仕事はそこまでにして、ちょっと母屋(おもや)まできなされ」
 お師匠の声がふたたびきびしくなった。
 「へい、まいりまするが……」
 直助はおおきな声を出した。
4/26 7:04

▼世話係
9-9
「へい、まいりまするが……」
 直助はおおきな声を出した。つやにきかすためにちがいなかった。戸がしまる音がひびくと、あたりはしんとした。頭のうえの板をそっと押しあげると、油皿の灯は消えていた。いろりの木切れにも灰をかけたのだろう、小屋のうちはまっくらだ。直助がどうなるのか気になり、一刻も早く母屋にもどりたい。あわてて歩きだすと、あがりかまちからどすんとおちた。さきほどとおなじ足首がねじれた。
 「いててて、これじゃまるで、あやつとおなじだ」
 腰をさすりながら、お袖のことをちらと思いだした。歩けなくなり、駕籠で三角屋敷の長屋に送られた。あのさわぎはきょうの昼まえであった。いろんなことがありすぎて、ずっとむかしのことのようだ。
 「人をのろわば穴ふたつとは、おっかさんがよくいってたな」
 さいわい、お袖とちがっていたみはなく、わらくずをふんで戸口にきた。人の気配がないのをたしかめてそとへでると、冬の雨はしとしととふりつづいている。

4/26 7:01

▼世話係
おはよう
昼寝から
いま目覚めました。
どうも昨夜はいつまでも飲んでいたみたいで。
4/25 13:26

▼わかけん
トリ
取るだったんですか!
酉、鳥に由来する言葉かと思ってました。
311のオオトリ。
熱狂してすぐさめる。
そして忘れる。
日本人の悪いクセです。
がつんと来る本を早く読みたい。
忘れてる場合ではない。
放射能はだだもれだし。
被災した土地はまだ手つかず。
補償も手薄。
なのにアベノミクス。
ヤスクニ。
憲法改正。
目を覚ましてくれよ、ニホンジン。
覚醒したのはαだけか。
4/25 13:10

▼世話係
9-7
「それで、どうしてそんなことがわかった。大黒屋の使いの者がおめえにいったか」
 「いんや、このこたあ、おれのほかはだれも知らねえ。よいか、つや。先生は師走になると毎年おちつかねえ。きょう十二月十四日は富岡八幡の年の市なのに、先生はすぐに吉良の屋敷の討ち入りのことをいいだすのだ。午後にどこかへ出かけて、師匠があわてて追いかけたというのも、あやしいだべえ」
「そういや、このところ毎晩、ふか酒だ」
「仏壇の位牌をしらべたら、俗名で小山田一閑というのがあったべえ。没年が、元禄十五年十二月の大晦日だ。討ち入りのあった年だべえ」
「おめえ、上州の山おくの生まれにしては、なかなかに頭がよいな」
ざらつく指が、しもやけの足からすねへ、すねからふとももへとあがってきた。おさえて、やめさせた。そうでなくても、火のぬくもりと体のうちのほてりがひとつになって、ぼうとしてくる。
「そのうえ、仏壇の引き出しには」
と、直助がいった。
「なにがあったのか、先生のへその緒か」
「ばか、なんでへその緒だ。本だ。浮世草子だ」
「おめえに本が読めるのか」
「すこしはな。それが、まあ、だまってききやがれ。どの本も、『忠臣略太平記(ちゅうしんやつしたいへいき)』とか、『忠義武道播磨石(ちゅうぎぶどうはりまいし)』とか『高名太平記(こうみょうたいへいき)』とか、赤穂の話ばかりだべえ」
 「おめえ、わしが居眠りしてるうちに、そんな泥棒みてえなことをやってたのか」
 「つや、これではっきりしただろ。やつらは、すねに傷もつ身だ。たたけばほこりのでる身だ。ま、お上に顔むけができねえもんだから、おれをどうすることもできねえ。番所へ行くなど、先生にとってはな、天につばするようなもんだべえ」
 「おめえもまたむつかしい物言いをする。いつのまにか、先生の口ぐせがうつったか」
 「しっ、だれかくるべえ」
と、直助がつやの口を手でふさいだ。たしかに、下駄の音が庭をわたって小屋に近づいてくる。雨でききとりにくいが、お師匠にちがいない。つやはあわてて、かくれる場所をさがした。いま、ふたりでいるところを見つかると、すぐにお払い箱になる。入船町のきたない長屋にもどらねばならない。
「これ、直助。ちょっと母屋(おもや)へきてくれまいか。先生が話があるそうだ」
声が板戸のまえでした。傘のあぶら紙に軒のしずくがはねる音がきこえた。
4/25 10:45

▼世話係
夜の酒
お久しぶり。やっと見通しがつくところまできました。
311の本、1000種ぐらい出ているそうで、
そのトリですね。
落語のトリは、真打ががっぽりと出演料を
「取る」ことだそうで。
江戸語ははっきりとしてるよ。
4/25 0:19

20532051

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