塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板

過去ログ2030 2013/3/27 7:40

▼世話係
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二、手習い

 「おい、見ろ。うまく書けただろ」
と、とうふ屋の三助が紙をつきつけた。のたくる字で「ち」とある。
 「ま、じょうずにできた」
と、つやはほめた。入船町(いりふねちょう)の家で七人きょうだいの長女としてそだった。年下の子をあやすのには、なれている。
 「ははは。おれの名だ。さんすけの『さ』だわ」
と、図にのった。
 「まあ、ま、ま、ま」
 つやは大仰(おおぎょう)にびっくりしてみせた。
 「どうだ、まいったか」
 「なによ、三助。『さ』はな、こう書くのだ」
つやは墨をたっぷりとつけた筆で、「さ」と書いてみせた。
 「なんだ、おれとおなじじゃねえか」
 「ばか、おめえの目はどこについておる。『さ』はな、ほれ、左にしりが飛びだしてる。おめえのやつは、右にしりがでっぱっておるでねえか。それは、『ち』という字だ」
 「なんだ。このまるいのがしりなら、この字はくそしてる絵か。げっ、こりゃたまげた」
三助はふざけてひっくりかえった。盆の窪だけに髪をのこして、あとはきれいに剃っている。その頭が机にぶつかり、すずりが落ちそうになった。
 「こらっ、三助」
あわてて大声でしかった。
 「つや、どうかしたか。ほかの子がびっくりするだろ、そんな大声をだして」
床の間のまえからお師匠がふりむいた。島田に結った髪に櫛とかんざしをさして、なかなかにきれいだ。
 「へえ。三助がふざけて、さわぐもんだから」
と、つやは弁解した。
 「おなごは、『はい』でしょ」
と、お師匠はやさしくいう。
 「はい」
とこたえたのは米つき屋の国丸だった。たかい、ひょうきんな声だったので、座敷にいた子がどっと笑い、てんでにしやべりだした。鳥がさえずるというよりは、犬がいちどに、きゃんきゃんと鳴きだしたぐあいだ。
 「おい、ろうそく屋のお玉」
 「へえ」
 「『へえ』ではねえだろ、お玉」
などと、ふざけている。
 つやは顔に血がのぼったまま、なにもいえなくなり、お師匠をにらみつけた。
 「では、きょうはこれでおしまい。つぎは、こんどの二の日ですよ。十二日にいらっしゃい。これこれ、お登紀ちゃん、そんなに義坊(よしぼう)をいじめない」
3/27 7:40

▼蜘蛛
は〜い、咲さん
なんか楽しいです。
先生、どこもでも追っかけますよ〜。
3/26 21:33

▼咲
あら
いい感じですね。センセイを追ってる蜘蛛さん。センセイ、体力勝負になってきました!
公認ファンクラブ、森下清澄門仲支部で、センセイ体力増強の会をしましょう! ね〜、蜘蛛さん。……よけい体力なくなったりして。
3/26 20:24

▼世話係
2章が終わって、
あの話に戻りますからね。
3/26 11:02

▼蜘蛛
ありがとうございます
先生の連載小説を読む楽しみが、
明日への生きる支えになっている事に気づきます。

庄左衛門を追っかているお多可さん、
どうなるのでしょうか。
3/26 10:52

▼世話係
花に夢中で
少し間が開きました。
間抜けになりました。
4、5とお読みください。
これで、1章、備後三原は終わります。
3/26 7:20

20312029

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