塩見 鮮一郎公式WEB 掲示板

過去ログ2009 2013/3/3 23:50

▼SYUPO
「たかばし」のくだり
庄左衛門の心情がぐっと胸に迫り、感動いたしました。
3/3 23:50

▼蜘蛛
あっ、蜘蛛
小説に高橋どころか私まで登場したので、もうビックリです。
すごく嬉しいし、偶然とはいえ不思議な感じもします。
この小説が大好きです。
先生ありがとうございます。
3/3 18:56

▼世話係
蜘蛛姫、おまたせ
上から34,35と読んでください。
これで、「たかばし」は終わります。
読んでいただいた方、お退屈さまでした。
3/3 12:17

▼世話係
34
これ、たー坊。どうした」
と、のぞきこんだ。
 あえぐように息はしていたが、瞳孔は拡散していた。くちびるは右のほうに引きつけてゆがんでいる。声もださないで、ちいさい手をかたくにぎりしめて宙につきだしていた。小枝のような腕がときおり、けいれんした。脈をとろうとしたが、腕をあげたままなので、あきらめた。
 たー坊のむこうに寝ている老婆が必死に頭をなでてやっていた。そのむこう、壁にくっついている五歳の姉は泣きじゃくっていた。この子は疳(かん)のやまいだった。おなかだけが異様にふくれて青筋がなん本もできる。蜘蛛(くも)のおなかのようなので、蜘蛛病(くもびょう)ともいい、米のとぎ汁のようなおしっこがでる。その小便がやまなければ死ぬが、いま泣いているのは、弟をあわれんでであった。
 「たー坊、たー坊」
と、ひとりごとのようにくりかえしている。
 「おい、たー坊。つらいか、いたいか。ああ、もう息もできねえのか」
と、庄左衛門はおどろいた。急速に顔色が青ざめ、くちびるが黒くなっていた。
 「おっかさん、きてやれ。きて、抱いてやれ」
と、声をつよくし、おしなのために場所をあけた。
 「たー坊、たー坊」
と、おしなは取りすがって泣いた。
 たー坊がとつぜんそりかえり、
「げえっ」
と、全身で嘔吐した。胃にはなにもないのか、口からつばきがはねただけだ。
 それが最期であった。
3/3 12:15

▼世話係
35
それが最期であった。
 「ご臨終でござる」
といい、空中につきだしていた腕をまげて胸で合掌させた。題目太鼓の音がいっそうたかくなったのからにげだすように庄左衛門は立ちあがった。息がはげしく、肩が上下した。顔には汗がふきだしていた。つかうことのなかったくすり箱を左手にもちかえ、右のてのひらで額をぬぐった。
路地に立つと悄然としてつぶやいた。
「この世じゃ、なにも思うようにはならねえ。万屋の伊予だって年をこせまい。なんと甲斐のないこと。なにをしても屁にもならない。そんな世をきゅうくつに生きるなぞ、笑止千万ではあるめえか。さ、さあ、どうだ、小山田庄左衛門。気がすむのなら行きてえところへ行ったらどうだ。なんのえんりょがいるものか。ことしこそ、じたばたしねえでまいろうではないか」
風にはためく幟(のぼり)の音が耳もとで鳴った。はっとして足をとめ、深川稲荷(ふかがわいなり)のちいさいほこらに手をあわせ、
「泉岳寺にまいらせてもらいたい」
と、おねがいした。寺まいりをお稲荷に願うのもおかしなことだが、かまわず、
 「わが最後ののぞみでござる」
と、つけくわえた。
だが、泉岳寺にはだれがいるかわかったものではない。顔をかくすための山岡頭巾(やまおかずきん)を取りにいちど家にもどることにした。
3/3 12:14

▼世話係
きのうなら、風つよしですね。
ますます健脚。
3/3 11:18

20102008

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