92 友希◆RENN
〜フローラ〜

フローラの前にはいつも一本の道があった。
生まれたときから目の前に広がる一本の道。
これまでは何の疑問も持たずにその道を進んできた。
いや、そこに疑問を持つ事を周りが許さなかったのかもしれない。
サラボナの大富豪ルドマンの愛娘。
それが彼女の肩書きであり、それが彼女の体を縛る鎖。
フローラは小さい頃から両親の愛に包まれ、何不自由なく育った。
しかし彼女には父親が用意した道しかなかった。
それが当然の事だと思っていたし、それ以外の道がある事も知らなかった。
しかし修道院で色々な人と出会い、いろいろな道があることを知る。
そして彼女の中に一つの想いが生まれた。

『自分の道を自分の足で歩いてみたい。』

その小さな想いは積み重なり、やがて大きな想いに変わる。
でもどうしたらいいのかわからなかった。
自分が両親の元を離れ、一人で生きることが出来ない事はわかっている。
自分の気持ちを口にすることも、行動に移すことも出来ないまま時間だけが過ぎていった。

そしてある日、フローラはサラボナに呼び戻された。
理由は結婚相手を決めるため。

『お父様。私まだ結婚なんて…。』

『わっはっは。そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよフローラ。私がおまえにぴったりの結婚相手をみつけてやるからな。』

このままでいいのだろうか?
フローラは何度も自分に問いかける。
でも答えは見つからなかった。
そんなもやもやした日々に、ある日一陣の風が吹くことになる。
それはどこか懐かしい、不思議な瞳をした青年との出会い。
(W42CA/au)