1 セリシアーシャ

Felix Natalis

おめでとう。

おめでとう。

今日という日に、心からの祝福を。

共に居られる歓びを、身体中で伝えたい。

今日という日を、貴方の手で、この胸に刻んでーー。
6 セリシアーシャ
動じずに受け入れ、抱き締め返してくれることに、安堵する。
肩の力を抜いて小さく息を吐きだすと、ようやくその紅い瞳を見上げた。

「…おとなしい私は、ファルの気に召さないか?」
「いや?抱き締めたくなる…。」

己から問うたは良いが、予想外な答えが返ってくる。
思わず驚きの表情を浮かべたが、否定の言葉で無かったことは、素直に喜べることで、直ぐに微笑みを返した。

「それなら、良かった。」

本心からの言葉に、ファルの表情が変わる。
普段、殆ど表情や感情を大きく揺るがすことの無い彼が、時々見せる瞬間。
とはいえ、どのタイミングで、だとか、そういったことまでは理解していない。
ただ、私の言葉に反応しているのだと思うと、どうしようもない、名前のつけがたい想いが沸いてくる。

「らしくないと言われたら…どうしようかと…。これで心置きなく、ファルに触れられる。」

心から思って、そのままを伝えると、ファルは困ったように笑う。
何かいけなかっただろうか、と不安が過るのと、ファルの言葉と、どちらが先だったか……。

「……………可愛いこと言うなよ…」

言葉の選択はそれぞれだが、想いは同じであることに変わりがないようで、ファルはゆっくりと唇を寄せる。
可愛くなど無い。そう反論だけは相も変わらずしようとしたが、唇が寄せられて、最後まで告げることはできなかった。
7 セリシアーシャ
変わりに静かに目を閉じて、己のそれを重ねて堪能する。
この逢瀬の時間は、そう長く残っていないだろう。
それでも、彼の温もりを感じてしまえば手離しがたく、深くなる口づけ。
シンプルな部屋に、舌が絡み合う度に響く水音。
俄に頬を赤らめるも、抱きついていた腕の片手を移動させ、彼の頬を包むように触れる。

「ん、…はぁ…」

息継ぎの合間にうっすらと目を開ける。
目の前には紅玉の瞳。

「もっと…。」

視線が絡まれば、キスをねだる言葉。
…無意識だった。
こんなこと、言うつもりではなかったのに。
はしたない女だと思われたろうか。
一抹の不安が胸を過る中、彼のガーネットのように深い色の瞳が閉じられる。
まるで私の言葉に答えるように、深く、長い口づけは続いた。

「………今回の誕生日は、色々と忘れられない日になるな。」

お互いが熱い吐息を溢して、唇が離れていく。
随分と深いキスに、私の口の端からはどちらのものか分からない唾液がこぼれていた。
ファルは笑みながら呟いて、私の髪を撫でる。
その心地よさに目を細目ながら、薬指でつぅと、自らの顎を伝うそれを拭う。

「……おめでとう。」

“忘れられない”などと言われれば、彼にこと関しては、特に単純な私。
嬉しいと己もまた微笑めば、すでに終わってしまったものの、伝えたいと思って祝いの言葉を、漸く伝えた。
8 セリシアーシャ
私の言葉は彼に届いたようで、穏やかな笑みが私の瞳に映る。
彼の大きな手が顎を掴むと、親指が濡れた唇を拭ってきた。

「…ありがとな。忘れねぇよ…。」

この日を忘れたりしない。まるでそう言われているみたいだった。
これ以上の至福を、どう表せばいいのかと思案していた所。…言い終わって、自分の唇を拭う姿に、多分の色気を感じてしまう。
おかげで、私の奥に仕舞い込んだ劣情が、顔を出したがる。

嗚呼、もう、私を捕らえて離さないのだから…本当に悪い男だ。

心の中でだけ悪態ついていると、ひとつ息を吐き出す音。

「明日も仕事だろ?送る…。」

こんな状態で一人にされたとて、それはそれで胸が切なすぎる所であったが、彼からの申し出を聞けば、それだけで私の胸は弾む。
帝国の首席貴族たる私のこの姿、他には見せられないと分かっていても、最愛の彼と共にいられる幸せには変えがたく。

「では、お言葉に甘えるとしよう。」

まだ側にいられる。それだけで、もう充分に幸せで、立ち上がってストールを羽織直す。
彼が外出の準備に取りかかれば、私は部屋の外へとでて、彼が来るのを待つ。
気づけば空は明るくなっていた。
とても短く感じたのだが、どうやら大分長居をしていたらしい。
初夏の陽射しと、空気を胸一杯に吸い込めば、来年も、彼の生まれた日を祝おうと決めて。
丁度良いタイミングで、部屋から出てきた彼を見上げれば、鍵をかける音がする。

「……ほんと、セリアは可愛いな?」

まるでどうしてと、問うかのような一言だった。
以前からも、ふとした拍子に言われることはあっのだが、最近特に彼からよく言われる言葉。
脈絡のない問いかけをしながら、寄り添うように私の腰に腕を伸ばし、彼は歩みを進める。

「……また、そういう…。」

彼はいつも何気なく、恥ずかしいことを言う。
堪えられずに、頬が赤くなるのを自分でも感じる。
しかし、“そういうことを平気で言うな”と続けようとした言葉を途中で終わらせる。
折角なのだから、今くらいは、昨日の延長で素直になろう。
そう思って、チラと視線だけ、私より背の高い彼を見あげる。
9 セリシアーシャ
…決意したとて、恥ずかしいという思いがあり、少しだけ視線を伏せってしまったが、覚悟を決める。

「ファルは、…格好良い…。」

彼のエスコートを受けながら、思う。そういえば、こういったことは、はじめて伝えたような…。
慣れぬことをして、高鳴り続ける心臓をよそに、思考の片隅で今までを振り返る。
それは余裕からでなく、恥ずかしさをどうにかしたいがゆえの行動。
勿論、彼を見上げるなどという勇気はない。
そのために、今、彼がどんな表情をしているのかは分からないが……私にとっても、確かなことがある。

今日という日を、生涯忘れることはないだろう。

〜Fin〜
10 セリシアーシャ
後書き

超自己満足な内容。
先日のファル君とのやり取りが、もうもうトキメキがつまりすぎて…!
これをセリシアーシャ視点で小説にしたい!という私の願望をぶつけて、勢いのままに書きなぐってしまった。

めっちゃ満足ー!!
…でも、言うほどセリの心情が入っていない…ね。
ノリと勢いで書いたからね…。
でも私は満足!

ここまで読んでくださったかたがいるなら、本当に嬉しいです。
ありがとうございました♪