1 アレン・ローエングラム

誓いの物語

『ア〜レ〜ン〜!あっそぼ〜!』
『あ、うん!待って、今行くから!』


〜序章・小さな村落の小さな少年〜


名も無い地方の辺境にある名も無き村―――…いや、村と呼ぶには人工が少ない。集落、それがふさわしいこの小さな小さな村落に、アレン少年は暮らしていた。

当時5歳……体格はさほど立派ではなく、回りには彼より大きい男子はたくさんいた。
アレン少年の日常は近所の同い年の子供たちとチャンバラごっこをしたり、女の子たちとままごとをしたり……他の子供よりちょっとだけ手が早いがそれでもみんなの中心で、常に笑っていたアレン少年…。


そんな彼に悲劇が降りかかるのは6歳の誕生日を前にした3日前のことだった……。


1章へ続く。
2 1章
『なんだって!?』
『馬車が落ちただと!?』
『捜索隊は派遣したがこの嵐で…』
『きっと生存者は…』

〜一章・少年の悲運〜


アレン少年が住んでいた村落は一番近く、商店がある村まで馬車で3日かかる田舎にあった。

月に一度、村落を代表して4、5人の大人たちが村まで赴き、約一週間をかけて物資を買ってくることになっていたのだ。


その日はアレンの両親と4人の大人が当番に当たっていた。
出発した時の天気は晴れていたが、なにせ一週間では変化もありうる。
当然天気が悪ければ物資の調達も滞る。
しかし、そのときは天気は悪くなかった。6日目までは。
7日目も雨雲は見当たらなく、村落では皆が安堵していた。


『これならお父さんもお母さんも帰ってきやすいね♪』
『ボク、早くお父さんやお母さんに逢いたいなぁ…』
『うん…ボクも…』
『わたしも…』


村落には小さい子供と老人が多い。みんな子供がある程度成長すれば都会に行ってしまうからだ。
まだ5歳そこらでは両親が恋しいのも頷けるだろう。


村落では、物資を買いにでかけた仲間を労おうとささやかな宴会の席を準備していた。
もう少しで帰ってくるな――――誰かがそう呟いたとき、突然雨が降りだした。
皆雨雲が発生したのに気付いてはいたが、まさかこんな短時間で降りだすとは考えていなかった。
運が悪いことに雷まで鳴り響いている。


これが村落から近くの村まで荒野や平坦な道なら問題はないのだ。…が、しかし。
両村の間には巨大な運河がある。
吊り橋は約500mほどであり、易々と崩壊するような設計ではないが…


村落民の悪い予感は的中し、馬車が吊り橋を通過中に雷が直撃。

アレンの両親を含む6人は帰らぬ人となった。


遺体は発見されることなく、幼子たちはわけもわからぬまま両親と引き離されてしまった。


残った村落民は同じ悲劇を繰り返してはならない、と決意し、やがて村落を放棄し都会へ流れていくようになる。


子供たちが両親を亡くしたことを知るのはもう少し先の話になるだろう……


2章へ続く。
3 2章〜新天地での暮らし〜
幼い子供たちが両親を失ったあの悲劇から10年……村落にいた人々は一番近い――といっても20日かかって――街に住まいを移し、平和に暮らしていた。

両親を失った子供たちのうち、3人は未だこの街に残っている。
彼らはそれぞれ、街の先住民たちの養子になり日々を送っていた。

自警団長を養夫に持つハリー。自身も団員として街を守ることに尽力している。

唯一の病院にもらわれていった看護の卵・アオイ。当時は街病院で人気の白衣の天使だったようだ。

そして最後の一人、アレン。彼は自警団に入りつつも、道場に入門し体を鍛えてきた。移住直後、5歳で入門したころは見るに絶えない鈍重な動きではあったが、才はあったようで、街一番では収まらず、対外試合でも負け無しの腕前を誇っている。

3人は幼少よりの付き合いで、街に来てからも変わらず、否。一層親しく付き合うようになった。


アレンは幸せを噛み締めていた。永遠には続かずとも、年老いて死ぬまで、きっと幸せに暮らせるだろう、と感じていた。


彼は思いもしないだろう。


その幸せが


こんなにも早く奪われるとは。


…3章へ続く。