1 リゼル

夜と月の協奏曲

何年前の事だろうか、長く生きているから解らないが私リゼルの遠い過去の話。
2 リゼル
1:姫と執事

私は吸血鬼の両親から生まれ親から「使いものにならない失敗作」と言われ、親の部屋から遠く離れた地下の部屋で一人引きこもって暮らしていた。

地下の部屋は普通の部屋と変わりなく、私にとってもうるさい親達はいないし快適だった。

「使いものにならない失敗作」と言われ離別されているのは親は跡継ぎが欲しかったらしく女として生まれてきた私は望みの子ではなかったのだ。

そのような扱いを受け私は喜ぶことも悲しむことも解らず感情があまり無い人格になってしまった。
だが私に感情を与えてくれたのはこの城の執事のユエだった。
彼は私と同じ銀色の髪をもち、眼鏡をかけ、そして私にとても尽してくれた。

彼は私に綺麗なドレスを着せてくれたり、外に出ない私を連れ、読書や楽器を奏でたりすることも付き合ってくれ、剣術までも教えてくれて、その度に、
「姫様は才能があります」
「姫様はきっとお強くなられますでしょう」
といつも褒めてくれて時には叱ったりしてくれ、私は徐々に感情が出るようになり成長していった。
彼は私の唯一信頼できる人だった。
3 リゼル
2:襲撃

私が人間でいえば15歳位の年頃まで成長したとき、今までの生活は音をたてて崩れていってしまったのだ。

当時魔女裁判があったように吸血鬼も同じく発見され次第処刑されていき、吸血鬼を退治する騎士達も続出している程であった。

そんなことなど知るはずもない私は夜部屋で読書をしていた。
襲撃にあうことも解らずに…。

読書を終え、席を立った時に感づいた焼けるような焦げた臭い。
異変を察知し部屋のドアを開けるとそこは火が凄い勢いで燃え上がっていた。
そこに丁度良く火を避けながらユエが駆けつけ息を切らしながら、
「姫様、早くお逃げ下さい!騎士達が襲撃してきております!」

私が喋る間もなくユエは私を抱き上げ裏口へと向かって走った。

その間に両親の事が気にかかり聞いてみるとただユエは首を横に振るだけでそれは死を意味していることが解った。

そして逃げている時、ユエの手には何やら黒い布に包まれた長い物体を持っていたが別に気にもとめずただ逃げた。


裏口から外へ出て火の中煙の中を走ったユエは苦しく膝をついたが私を下ろして無理をして私の手を引いて、正門に騎士達がいないことを確認し、正門へまわると二人で燃えさかる城をただ見つめるばかりだった。

するとユエはさっき手にしていた黒い布に包まれた物体を私に手渡した。
「これは…」
「これは姫様に差し上げます。姫様がほぼ剣術を身につけたときに渡そうと思っておりました。今の姫様にはきっとこの剣は応えてくれるでしょう。」

布を取り、鞘から剣を出すと美しい漆黒の細身の剣だった。
私は嬉しくなり満面の笑みで答えた。
「…ありがとう、大切にする。」
「姫様が受けとって下さってとても嬉しいです。」

ユエは安心したように微笑んだ。
しかしユエの微笑みを見るのはこれで最後だった。
4 リゼル
3:死と悲しみの満月

私が安心したのも束の間、微笑みを見せた表情がいきなり歪んだ表情へ変わり、ユエの胸から剣が出ていた…いや、背後から誰かに刺されたのだった。
呆然とする私と血を吐いて倒れるユエを嘲笑うかのように襲撃した本人、騎士達が7〜8人いつの間にかとり囲んでいたのだった。

そんな騎士達よりもとっさに倒れたユエを抱き起こしたが彼は虚ろな目でかすれた声で口から血を流しながら告げた。

「…私も吸血鬼…この魔術がかかっている剣では不死の吸血鬼も死んでしまいます…。
リゼル、強くなって私よりも…私の分まで長生きして下さい。それこそが私の望み…。
そのリゼルに渡した剣は私だと思って大切にして…下さ…」

言葉を言いきれずにユエは一瞬にして砂となり風に流されていった。
私はその砂を一掴み手に握ると悲しみと怒りで手が震えだした。
今まで私にいつも希望をくれたユエが死んだ…。
標的は騎士達。
私は叫びをあげて騎士達にかかっていった。
ユエのくれた剣を持って。

満月の夜は吸血鬼にとって魔力は最高潮、それに加えて暴走している為力は倍となって騎士達は次々に空中を舞った。

全身血まみれになった私は辺りに飛び散る騎士の肉片と血の海の中呆然と立ちつくし、剣を見つめた。

『私の分まで生きて下さい…。』
「…うん…。私はお前の分まで…生きる…」

そう告げると私は城を後にして森の中へ身を隠した。


君の剣を抱き締め、新しい生きる道を開く為に…。


─END─