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1 オレンジ

好き

つい今しがた吐き出したその白濁を手のひら、って言うよりは指先に重点的に塗りつけて、京平はその指をさらに下に下ろしてきた。一度達してしまった後だから、俺はもう難しいこととか何も考えらんなくって。ていうかね、姉よ。あんたの持ってる本の中じゃ何回戦もやるみたいだけどね? 実際は一回出すだけでものっそい疲労感なんですよ。続けざまに何回もできるやつって何? 絶倫なの?

「また余計なこと考えてる。泉、ちゅーして」
「うぇー……う、はい」

 しまった。見抜かれたか。
 何もお咎めがないといいけどな。変なところでサディストだから、たまにヒヤヒヤするよ。
 でもキスはほら、俺も好きだから。こうやって強請られることも嫌いじゃないよ。むしろキスなら俺からだって全然構わないくらい。だから俺は疲れてだれきった手を彼の首に絡めて、情熱的にちゅーしてやったんですね。そのちゅーに、夢中になっちゃったのがどうやら敗因だ。

 いきなりの違和感。京平はどこをどうやって触ってる? そこはね、ほら、排泄器官じゃないですか所謂。さっきお風呂に入ったからと言ってキレイな場所ではないし、そうやって撫でまわす場所でもない。普段絶対に自分でも見ることのない場所、の筈なんだけど。俺が出したやつはちょっとぬるぬるしてるからアレだ、ローション、みたいな? でもそこまで有能じゃないからすぐ乾いてしまう。乾いたらどうするんだろうな、って思ってたら。

「――っ!?」

 入ってきた。痛いって言うかすごく決まりが悪い感じがする。落ち着かない。だって普段は出すところなのに、入って言ってる。違和感。
 京平の長い指がどんどん入ってくるけど、全部入るんだろうか……指が侵入するに従ってどんどん痛みが増してきた。眉間に皺が寄ったのを見て、京平は唇を離して、さっきみたいに首とか胸に舌を這わせる。あぁ駄目、それやられると、頭に入ってこない。

「ゃ、京平……何して」
「第二段階」
「え?」
「ここをちゃんと慣らしておかないと、俺もお前も痛いから。もう少し我慢」

 でも、滑りが悪くなってきたな……なんて口にしながら、それを一旦引き抜いた。その感覚に、ひゅっと息を飲んだことを、きっと京平も気づいてる。何をするんだろうってぼんやりする頭を必死に回転させて目で行動を追った。いつか京平の部屋に来た時に、自分で勝手に名前をつけた「秘密の箱」に手を伸ばして、京平はそこから化粧水みたいなボトルを取り出した。どちらかというと、姉の使ってる除光液のボトルに似てるかもしれない。蓋をあけて逆さにすれば液体が出てくるのは至極当然のことで。
 少しとろみがあるなぁと思って、あぁこれはもしかしたらローションなんじゃないだろうかって、理解した。
 さっきと同じように塗りこんでまた、彼の指が入ってくる。さっきより冷たい。

 冷たいけど、さっきよりスムーズな感じがした。えぇぇ俺ってもしかして緩いとか、そういうことなのかな。後で確認しよう。

「いずみ」
「ん、何?」
「お前音に弱いから。ちゃんと、聞いてろよ?」

 いつもの不敵スマイルで、さっきとは違う。問答無用に彼は指を抜き入れしてきた。その度にその部分から、水音が響いてくる。何だろう。泥の中を靴でぐっちゃぐっちゃ歩いてる音に似てるかもしれない。でも、これは駄目だ。耳に響く。彼の言うとおり、俺はきっと音に弱いんだと思う。その証拠にもう、痛みとかそういうの超えて、何も考えられないから。

「う、あ――変な、感じがす、る」

 たった一本なのにすごい圧迫感だ。ちらっとそこを見てみた。情けないことに俺のは若干また勃ち上がり掛けてて。否応なく目に入った京平のそれは、さっきと変らずに相変わらずな存在感でそこにあった。でも、先端が濡れてる。彼も興奮してるのは、間違いじゃない。
 ふいに、彼の指がある一点を掠めた。今まで感じたことのない感覚。全身に電流が走っていくみたいな……一番感覚として近いのは、達する時のあの感じ。だからそう、これはとてつもないくらいの快感で。

「――ひ、ぁっ! やだ、そこやだ……っ!!」
「やっと見つけた」

 もっと声聞かせて。俺、いずみの喘ぎ声好きだ。
 耳元でそんなことを言いながら京平は指でそこを責めるのも止めない。質量が変わったと思ったら指が増えていた。二本の指でばらばらにそこを責められては頭がおかしくなる。声も止めたいのに、止めるすべがわからないんだ。でも、戸惑いと快感のほかにもう一つ増えた感情がある。世間的な言葉でいえば、欲望ってことばが近いんだと思う。
 欲しい。指じゃ足りない。
 違うもの、もっと、もっと。

 気が付いたら俺の手は京平のそれに触れていた。あつい。触ることで彼がどれだけ自分に興奮してるのかがわかった。血管が浮いてるし、これはもう、どうしようもない時の男の。
 指よりももっと。うん、これ。これが欲しい。
 もっと、奥にこれが。

「――っ、誘ってんの?」

 じゃあ俺ももう我慢しない!
 一気に指が抜かれて、俺の手も止められ、代わりにそれが当てられた。先端がくっ付いて、その感覚に引きつく。あぁ、これが、入る。

 って思ったら急に京平が冷静になった。そんでもって慌ててさっきの箱から何かを取り出す。俺が、朝姉に貰ったものだ。

「危ねぇ……飛びかけてた。ごめんな泉」
「う、うん。ありがとう、気にかけてくれて」
「じゃ、改めて」


 イタダキマス。

 一瞬でも気が緩んだのがいけなかったんだな、きっと。熱に浮かされて熱を求めていた体に、容赦なく入り込んでくるもの。痛い、痛いけど、熱い。ゆっくりと慎重に埋め込まれてゆく。きっと彼なりの優しさなんだけどそれが逆に辛かった。どうせなら、一気に、痛みと一緒に貫いてくれたらいいのに。じらされてるようでたまらない。

「きょ、へ」

 欲しい。京平が、欲しい。